馬の気持ちはわからない(一口馬主遺産)

『馬の気持ちはわからない(『傍観罪で終身刑』改メ)』(http://d.hatena.ne.jp/Southend/)の移転先にして遺跡です

言いたかないけど、「マスゴミ」

▼今朝の朝日新聞16面での、有吉正徳記者の記名記事の見出しはこんなものでした。

中央競馬再開 現状無視の強行 馬インフル終息待たず

なんとも強硬な見出しです。で、そうした主張の根拠として上げた状況のひとつが、

24日以降に感染し、表面上、発症しなければ、そのままレースに出走しても誰にもわからない。
(中略)
 競馬の前提は全馬が健康な状態で全力を発揮できることだろう。そうでなければ、ファンは信頼して馬券を買えない。

 ・・・・・・馬券、買わへんかったらええやん。なんで買う必要があるんでしょう? そこにあるのは「選択肢」であり「強制」ではありません。そして、JRAが公式サイトに載せた情報は、個人的にはその選択の判断材料として最低限の要件は満たしていると考えます(スポーツ紙や専門紙の広告欄を買って、同様の説明文を紙媒体にも載せる必要はあるでしょうけど)。
 全馬が健康な状態で全力を発揮するのが前提? なら、当歳時の開腹手術履歴から屈腱炎などの既往症歴、カイバ食いの量からボロの状態まで、全部公開させなきゃならんのでは? 本当に、本気でそれが「公正競馬」の必要条件だと思ってるんでしょうか? なら、ゲーセンの競馬コインゲームのほうがよっぽど公正だと思いますけど。ていうか、それが必要条件だとするなら、その責を負わなきゃならんのはJRAだけじゃなくて現場の人間とマスコミも同じでしょう。その馬が全力を発揮できることを誰が保証し、その保証を誰がファンに伝えてくれるというんでしょうか?
 ちなみに僕が考える「公正競馬」のクリティカルな必要条件は、「レース開催に携わる人間が恣意的に結果を操作し、それによって不正・不当な利益を得られるようなフレームワークの排除と、厳格な禁止ルールの設定・罰則の適用」ということに尽きます。それ以外の要素は、無意味とは言いませんが全て枝葉末節だと把握しています。


▼話が逸れました。で、もうひとつの根拠が、

 現在、JRAのレース開催システムの中で外部の民間牧場はなくてはならない存在だ。(中略)頻繁な馬の入れ替えが活気あるレースを支えている。インフルエンザ禍により、馬の移動はJRA関連施設に限定されている。
 関連施設内にいる4235頭はレースを3週維持するのが精いっぱいの数だ。この観点からも、レース再開は現実を無視している。

だそうで。最初のは理想論としてまだ理解できるとしても、こちらに関してはまぁ呆れて物が言えません(って書いてますが)。叩かんがための牽強付会もここまできたかと。“頻繁な馬の入れ替えが活気あるレースを支えている”ですって? もしその主張を本気で通したいのであれば、“活気あるレース”の開催を促進するために、最低限「1開催につき3戦以上の出走禁止」「連続在厩期間の上限設定の新設」を、有識者としての権限と責務をもって早急にJRAに提言していただきたい。


 自分の出資馬で言えば、例えばウインシンシアという馬は、今年の2月1日に栗東トレセンに帰厩。そこから在栗のまま6月末までの5ヶ月で5戦を消化し、7月19日に小倉競馬場に移動。7月22日足立山特別(8着)→8月4日都井岬特別(2着)→8月12日鹿屋特別(12着)と、滞在競馬で4週間で3度のレースを戦いました。さらに、馬インフルエンザ禍によって移動を制限され小倉に缶詰になった上に、18日に陽性反応が出た(21日の再検査では陰性に戻る)ため白紙になったものの、予定では鹿屋特別後栗東に戻り、9月8日の阪神開催への続戦を企図していました。<追記:JRA施設間の移動が解禁され、また馬インフルエンザの体調への影響も最小限でとどまったことから、当初の予定通り帰栗し、阪神開催を目標に調整が続けられることになりました。>
 この馬は、元々チューリップ賞3着・桜花賞6着と将来を嘱望された素材ながら、カイバ食いの悪さが災いし、当時は満足に競馬が使えない状態でした。それが、今年3月に復帰戦を使ったあたりから徐々に上向き出し、夏に入ってからはすっかりカイバ食いも安定してきました。もちろん前述したように、3月の復帰後は一度も放牧には出されていません。
 本来「トレセンでの管理」とはそういうものではないでしょうか。


 そもそも短期放牧の利用(“頻繁な馬の入れ替え”)がここまで広まった最大の理由は、「数的に制限された馬房の有効活用」であるのは論を俟たないところ。馬のリフレッシュ効果も否定するものではありませんが、あくまで副次的、また別次元の問題でしょう。また、「帰厩10日そこそこで使って本当に満足な仕上げができるのか」「外厩での調教内容が見えないことで、予想ファクターとしての追い切り情報公開が形骸化する」と、<外部の民間牧場の積極利用が公正競馬を阻害する>という論調も一時期は活発に見られたはず。というか、個人的には今でもそれは一理ある考え方だと思っています(自分の考える公正競馬の定義とは離れたところで、ですが)。


 また少し話が逸れましたが、とにかく“関連施設内にいる4235頭はレースを3週維持するのが精いっぱいの数”かどうかは、一般紙の記者風情が判断することではないでしょう。現場の人間を馬鹿にするにもほどがある。また、仮に移動が制限されたまま時が過ぎ、「在厩馬のみでは満足なレースを提供できない」という状況に陥ったとしても、それはまたその時に判断すればいいこと(それは今週末の開催についても同じことです)。それとも、一旦再開すれば、再度の中止決定は絶対にできないとでも思い込んでらっしゃるんでしょうか? どこにそんな根拠が?


▼早々に開催方針を打ち出したJRAを「結論ありき」と叩き、翌日の開催中止発表を鬼の首でも取ったようにまた叩いたマスコミが、それこそ「批判ありき」で論理どころか詭弁と呼ぶのもおこがましい妄言を振りかざし、「今そこに競馬があること」を無定見に否定するがごときは、到底許せるものではありません。有吉氏個人がそうであると言いたいわけではありませんが(先週末の状況について氏がどのような見解を持っておられるのか分からないため)、少なくとも当該記事内での言説だけであっても、十分批判に値するものだと思います。


▼・・・・・・と、ここまで書いたところで気分的には「まぁ、勝手にほざいておけばいいよ」と落ち着いてしまったわけですが(あまりマイナス感情が持続しないタイプ)。ただ、書いたことについてはかなり本気。昨晩チャットで「JRAもJRAでショボいよなぁ(特に縦割り型組織の限界と、情報公開面の手際の悪さにおいて)」と散々けなしていたわけですが(えー)、それはそれとして、ここまで謂れのない誹謗を浴びなければならない理由もない気がします。
 馬インフルエンザ禍が終息すれば、またなにかあるごとにJRAを叩く生活(?)に戻ると思われますが、とりあえず今回の件については、気分的にJRAや、開催努力を続ける調教師さんなど「中の人」の擁護スタンスでいこうかと。それでなにか大きな問題が出れば、素直に「見通し甘くてすいません」と謝りたいと思います。僕が謝ったところでビタイチ意味ありませんけど。


<追記>
馬インフルエンザ騒動の中、開催は決まったが・・・。 小島茂之厩舎の本音(公式ブログ)/ウェブリブログ
▼上記文章をアップしたのは今日の昼頃でしたが、本日19:27付けでアップされた、小島茂師ブログの新記事が、関連が深く、また非常に理解できると感じたので紹介させていただきます。
 この意見に、全ての人に同意しろとは(もちろん)言いません。ただ、今回の騒動を、一定以上の興味を持って見つめた全ての競馬ファンに、是非ご一読いただきたいエントリ。「公正競馬」という言葉について、字面のイメージ以上の意味を深く考えずに振りかざしている方には、特に。
 JRAの判断を、マスコミの報道を、どう捉えてどう判断するかは皆さんの自由です。ただ、どういうスタンスに立つにしろ、こうした現場の方の思いがあることだけは、心の隅にでも留め置いてもらいたいと願ってやみません。
 あ、ちなみに自分は単なる一競馬ファンです、念のため。