馬の気持ちはわからない(一口馬主遺産)

『馬の気持ちはわからない(『傍観罪で終身刑』改メ)』(http://d.hatena.ne.jp/Southend/)の移転先にして遺跡です

ダートグレード競走の価値は

▼前のエントリのスピンオフというか。


http://www.keiba.go.jp/dirtrace/index.html
ダートグレード競走は、1995年の“交流元年”以来、個人的にはかなり順調あるいは急激に整備された印象があります。しかし、その効果でダート競走あるいはダート馬の地位向上が顕著だ、という観測結果は、今のところ上手く見出せません。まだ結果を云々するには時期尚早かなという気もしますが、今回のブルーコンコルドのG1・7勝の評価が、現状を示すひとつの良いサンプルなのは確かでしょう。


▼ブルコン引退問題についてtwitterで盛り上がっていた時、@Mahal氏(@殿下執務室)がこんな発言をしていました。

Mahal案外、ダートG1はハンデ戦主体にして、62kgとかで勝ってくる馬を待つ方向にしたら、インパクト的に種牡馬にして貰いやすいのかも知れぬ、などと。 ( 2009-11-09 23:09:23 )
これを読んで、現在のダートグレード競走路線があまりにも「消耗戦にならない状況」というのは確かにあるかもしれない、と思いました。換言すると、綺麗に整備されてしまいすぎたゆえに、あまりにも「平坦である」印象を与えてしまっている面は あるのかな、と。
 もちろんそれは、ダートG1での活躍がその馬のキャリアの「着地点」(=種牡馬入りのパスポート)になりえない、という点ゆえのこと……という側面もあるでしょう。しかし、出走枠の希少さとダート馬の競走寿命の長さが相まって、構造的な閉鎖性・寡占特性が色濃く滲み出てしまっている現状が、ダートグレード競走の市場価値にデフレをもたらしている……という一面もまた、否定できないところなのかなと思います。鶏が先か卵が先か、という話ではありますが。



▼以下に、ダートグレード競走にまつわる幾つかの事実(字面上の)を挙げてみます。


JBCクラシック歴代勝ち馬>

実施年度 勝ち馬
2001
(創設年)
レギュラーメンバー
2002 アドマイヤドン
2003 アドマイヤドン
2004 アドマイヤドン
2005 タイムパラドックス
2006 タイムパラドックス
2007 ヴァーミリアン
2008 ヴァーミリアン
2009 ヴァーミリアン


<中距離ダートグレード(G1)競走・勝利数ランキング>

  • 2勝以上の馬を表記
  • 集計対象レース:古馬混合中距離G1
  • 参考データ:天皇賞春・宝塚記念天皇賞秋・JC・有馬記念での集計結果
    • 集計期間:2001年〜2009年
    • 分母数:43(5競走×9年−未実施分2競走×1年)

競走馬名 R数 占有率 競走馬名 R数 占有率
ヴァーミリアン 7 16.3% シンボリクリスエス 4 9.3%
タイムパラドックス 5 11.6% ディープインパクト 4 9.3%
アジュディミツオー 4 9.3% ゼンノロブロイ 3 7.0%
アドマイヤドン 4 9.3% タップダンスシチー 2 4.7%
カネヒキリ 4 9.3% メイショウサムソン 2 4.7%
カネツフルーヴ 2 4.7% マンハッタンカフェ 2 4.7%
レギュラーメンバー 2 4.7% ヒシミラクル 2 4.7%
アドマイヤムーン 2 4.7%
合計 28 65.1% 合計 21 48.8%
(参考:勝ち馬頭数) 22頭 (参考:勝ち馬頭数) 30頭


カネヒキリヴァーミリアンブルーコンコルド直接対決成績(ダートG1のみ)】

施行年月 レース名 カネヒキリ ヴァーミリアン ブルーコンコルド
2006年2月 フェブラリーS ○(1着) ●(5着) ●(4着)
2007年10月 JBCクラシック ○(1着) ●(4着)
2007年11月 JCダート ○(1着) ●(7着)
2007年12月 東京大賞典 ○(1着) ●(5着)
2008年2月 フェブラリーS ○(1着) ●(2着)
2008年12月 JCダート ○(1着) ●(3着) ●(5着)
2008年12月 東京大賞典 ○(1着) ●(2着) ●(4着)
2009年1月 川崎記念 ○(1着) ●(4着)
2009年2月 フェブラリーS ○(3着) ●(6着)


▼データを出してみると、「寡占性」という点については芝G1ともっと顕著な差が出るのかと思っていたので、多少意外な印象もありました。が、それでもやっぱり違いは歴然としているのかな、と。これは殿下がこの記事で指摘している

ダート馬の選抜体系が進化したら、案外芝で実績を残し産駒がダート走らない内国産種牡馬がワリを喰ってダート馬が種牡馬として成功しやすくなるのかなぁと思ったのだけれど、地方競馬の急速な縮退により、上述のような「叩き上げ」的な場として地方競馬が機能しなくなった

ブルーコンコルドと、ダート馬種牡馬の問題。 - 殿下執務室2.0 β1

という面が強く影響しているんじゃないかと思います。特定中央馬の草刈り場としてのダートグレード競走、という悲しさ。
<参考>

ダートグレード競走 各種記録(2009年1月1日現在)【競走馬・通算勝利数】
10勝: ブルーコンコルド
9勝: アブクマポーロヴァーミリアンタイムパラドックスファストフレンドレマーズガール
8勝: ウイングアローサウスヴィグラスノボジャックビーマイナカヤマプリエミネンス
メイショウバトラーリミットレスビッド
7勝: アドマイヤドンオースミジェットカネヒキリ

http://www.keiba.go.jp/dirtrace/index.html

 また、ブルーコンコルドはもちろんのこと、あのヴァーミリアンにしたところで、こうしてカネヒキリを含めた直接対戦成績を一覧してみると、あくまで「積み上げた」勝利であって、「突き抜けた」存在ではない……ということを突きつけられた感があります(ブルコンに関しては距離適性の問題もありますが)。印象論になってしまいますが、だからこそヴァーミリアンのG1・8勝という本朝競馬史上初の快挙は、しかし多くのファンにとって、通常の新記録達成に付随する「ブレイクスルー感」には欠ける……と捉えられたのではないかと。
 これはもちろん、ヴァーミリアンブルーコンコルドを貶める意味での指摘ではなく、殿下の言う「(スタリオン入りのための)インパクト」という観点からの、現状のひとつの解釈である、ということは述べておきます。その辺を踏まえると、これもまた殿下が

実際、最優秀ダートホースで今のところ種牡馬外れた馬は居ないし、居たとしたら最初にその座に納まるのはアロンダイトだとは思うんだけれど、その辺りの不運はあったかと思いつつ、でも何かアロンじゃなければカネヒキリな気も今はしている

ブルーコンコルドと、ダート馬種牡馬の問題。 - 殿下執務室2.0 β1

と言及しているのと同じく、カネヒキリが将来生産界からどういう評価をされるのか、というのは非常に興味深いところではあり。


▼新しい酒は新しい革袋に……てな格言もありますが、その段で行くと、芝G1がビールサーバなら、ダートG1はさしずめ酒壺でしょうか。好みはそれぞれ、ただ通常の場合、後者を好む酒飲みこそが「通」と呼ばれるものかもしれません。しかし、より多くの人に望まれるのはどちらか、新鮮なのはどちらか、という話になると……さて。どっちがいいの、という話ではなくそれぞれの個性というものでしょうけれど、熟成させることで深みを得た酒はしかし、「再現性が担保されない」という見方をされて、飲み切りで終わってしまうケースが多いのではないかと思います。
 まぁ喩え話を前提に話をするとややこしくなりがちなので、とりあえずは一般論として、「新陳代謝の活発さと多様性に乏しい系は衰退する」という点を指摘しておくにとどめます。

多様性の変動はロジスティックな経過をたどると想定されるため、多様性を維持するためには、多様性そのものが必要であると考えられる。また、進化論・複雑系の観点からは、「壊すのはたやすく、作り出すのは至難(多様な状態を生むのに非常に長い時間が必要となる)」なものであるといえる。

また環境に適応する面からも、画一的な生物群よりも多様性を持った生物群の方が生き残りやすいと考えられる。環境に変化が起きたとき、画一的なものは適応できるかできないかの二択であるが、多様なものはどれかが適応し生き残る為の選択肢が多いからである。

多様性 - Wikipedia