馬の気持ちはわからない(一口馬主遺産)

『馬の気持ちはわからない(『傍観罪で終身刑』改メ)』(http://d.hatena.ne.jp/Southend/)の移転先にして遺跡です

「SSで万全」は血統的に「偏ってる」のか?

▼まず先に、表題の元ネタは『究極超人あ〜る』の中のある会話より。どうでもいいですね。


▼で、内容の元ネタはこちら。

2009年度の英愛リーディングサイアーランキングが紹介されていますが、これを以下の表にまとめてみます。ちなみに「系統」「経由」という欄は主旨に沿った形でわかりやすく見せるためのものなので、厳密なルールに則って書いているわけではなく、多分に恣意的であることをご了解ください。


順位 種牡馬 父系統 経由
1 Danehill Dancer Northern Dancer Danzig(*デインヒル)
2 Cape Cross Northern Dancer Danzig(Green Desert)
3 Montjeu Northern Dancer Sadler's Wells
4 Galileo Northern Dancer Sadler's Wells
5 Oasis Dream Northern Dancer Danzig(Green Desert)
6 Pivotal Northern Dancer Nureyev
7 Sadler's Wells Northern Dancer (直仔)
8 Dansili Northern Dancer Danzig(*デインヒル)
9 Shamardal Northern Dancer Storm Cat
10 Dalakhani Never Bend Mill Reef


一方日本はこちら。

順位 種牡馬 父系統 経由
1 マンハッタンカフェ Hail to Reason *サンデーサイレンス
2 アグネスタキオン Hail to Reason *サンデーサイレンス
3 ダンスインザダーク Hail to Reason *サンデーサイレンス
4 *シンボリクリスエス Hail to Reason Roberto(Kris S)
5 *クロフネ Northern Dancer Vice Regent
6 スペシャルウィーク Hail to Reason *サンデーサイレンス
7 フジキセキ Hail to Reason *サンデーサイレンス
8 キングカメハメハ Mr.Prospector Kingmambo
9 サクラバクシンオー Princely Gift *テスコボーイ
10 タニノギムレット Hail to Reason Roberto(*ブライアンズタイム)
(参考:父系馬鹿:2009年リーディングサイアー考察(中央) - livedoor Blog(ブログ))
日欧いずれも見事な偏りようですが、インパクトとしてはまだ英愛に一日の長があるという感じ。ただ、*サンデーサイレンスDanzigに対比される存在とすれば、そのカウンターとしてのSadler's WellsにRoberto系(シンクリやギム)がなりえるイメージが湧かない分、時間の問題というかむしろよりヒドいことになりそうだ、という推測は立ちそう。とはいえ、今のキンカメの勢いを見るに、ここから始まるなにかもありえるかな、という気もしますが。


ちなみにアメリカはこちら。

順位 種牡馬 父系統 経由
1 Giant's Causeway Northern Dancer Storm Cat
2 Distorted Humor Mr.Prospector *フォーティナイナー
3 Smart Strike Mr.Prospector (直仔)
4 Tiznow In Reality Relaunch
5 A P Indy Bold Rular Seattle Slew
6 Street Cry Mr.Prospector Machiavellian
7 Northern Afleet Mr.Prospector *アフリート
8 Medaglia D'oro Northern Dancer Sadler's Wells(El Prado)
9 Dynaformer Hail to Reason Roberto
10 Tale of the Cat Northern Dancer Storm Cat
(参考:http://bunny.s44.xrea.com/modules/bulletin/index.php?page=article&storyid=5699)
メジャー系統に混じってティッッツナウ(合田さん風、でもねぇか)が入ってたり、A.P.Indyが山王戦の桜木並に「あれ……まだいる」状態だったりで、やっぱりアメリカは自由の国だなぁというかなんというか。



▼英愛の血統的偏向に関しては、以前

で(競馬ブックの連載記事を取っ掛かりに)軽く触れたことがありました。*デインヒルGreen Desertが権勢をふるい、カウンターとしてのSadler's Wellsも健在で、Mill Reef系はDalakhaniが……といったあたりを見るに、まぁ特に番狂わせもなく事態は進捗している感じ。
 ちなみにこの記事の締めに

「マイナー血統は嫌? そんなにサンデーの血が欲しい? 今のような寡占状況に至れば、ウォーニングやサッカーボーイの血の方がむしろ貴重だと思わない? 大勢に日和って、落穂拾いで糊口を凌ごうとするような姿勢に、わたしはもう飽き飽きしてるのね」

というパロディ文を載せていることからも分かる通り、これを書いた頃の僕は、進行しつつある(ように観測される)多様性の喪失を危惧していました。
 しかし現時点での把握としては、

よく考えればジェネラル・スタッド・ブックに記載のある102頭の種牡馬のうち、
現在も父系を繋いでいるのは3頭のみ、しかもその95%はダーレー・アラビアンの直系です。
では、現時点での血統地図は、多様性に乏しいと言えるのでしょうか?
これも判断基準次第だと思いますが、僕としては別にそういう印象はないな、というのが正直なところです。
あと、母系も含めて、育種学的に「種牡馬ごとの遺伝的な貢献度」というものを計算すると、
件の102頭の種牡馬のうち、最も貢献度が高いのはゴドルフィン・アラビアン
次いでダーレー・アラビアンで、3位にはいまや直系子孫がいないCurwen's Bay Barbという種牡馬が来るそうです。
バイアリータークはその次。(出典:『サラブレッドは空も飛ぶ』楠瀬良・2001)

そんなわけで、ひとつの父系がたかだか十数年繁栄を極めたからと言って、
マクロな意味での血統地図が輻輳するタペストリーから化繊のカーペットに堕するのではないか、
なんていうニュアンスの危惧は、杞憂もいいところなんだと理解することにしています。
第一日本のサンデーより、欧州のNorthern Dancer寡占の方がひどいんじゃないでしょうか多分。
まぁその辺は詳しくないのでアレですが。

「種の保存」とか「群選択」みたいな概念が時代遅れになってきた(らしい)昨今でもあり、
種牡馬単位……というか大きな「父系」の寡占、という危惧は措いておいて、
とりあえずは「個」のことだけ考えていればいいのかな、というのが今の解釈です。
ただ、獣医学的な進歩によって、種牡馬1頭あたりの種付け頭数が増加傾向にあるのは、
「他の個を圧迫する(従来ならありえた可能性を潰す)」という意味で多少の警戒感はあります。

DNAと馬とゲームの規則 - 馬の気持ちはわからない(『傍観罪で終身刑』改メ)

という感じに変化しました。そんなわけで必然的に、「流行血統に群がる馬産家や購買者」に対する見方も、以前ほどラディカルなものではなくなっています。ただ、単純な論理的帰結として、「オッズの安い方に張っていてはいつまでたっても大きく勝てない(正確に言えば貧乏人は永遠に金持ちに勝てない)」……という点を分かってやっているんだったら、好きにすればいいんじゃないかな、と。


▼ちなみに自慢できるほどのレベルではありませんが、自分の一口出資馬で、好調だった明け4歳世代を回収率上位から見ると、

  1. レディルージュ(父ブライアンズタイム・1575万)
  2. ロードアイアン(父ステイゴールド・840万)
  3. ドリームゼニス(父マーベラスサンデー・1700万)
  4. メトロノース(アドマイヤコジーン・2000万)

となります(括弧内の数字は募集総額)。この4頭は同世代のクラブ馬全体で見ても、回収率的にはトップ20に入ってます(更新時点・一口馬主DB調べ)し、基本的に馬の値段のベースと言うか相場は種牡馬で決まる、という点を頭に入れて選ぶかどうかで、中長期的にはかなりの差が出てくる気がします。まぁメトロは相場から考えるとお高めという気もしますが。


▼そんなわけで、個人的な結論としては、

  • 血統の偏りは中期的に見れば一過性のものである可能性が高い
    • 仮にそうではなかったとしても、現状程度の偏りであれば育種学的にもおそらく問題ない
  • ビジネス的にも流行を追う事自体に問題はないと考える
    • ただしそれで短期的に勝つためには相当の資金力が必要
    • しかもいずれ高い確率で「揺り戻し」が来ると予測される
    • よって、どちらにせよ資金力に乏しい者が勝つためには基本的に「逆張り」しかない

といったあたりでしょうか。ただまぁ、この辺はマクロというか、ある種形而上的なニュアンスも含まれてくる話なので、いちファンとしてはうっすら意識しておくぐらいの意味合いしかないんですが、まぁとりあえずということで。