馬の気持ちはわからない(一口馬主遺産)

『馬の気持ちはわからない(『傍観罪で終身刑』改メ)』(http://d.hatena.ne.jp/Southend/)の移転先にして遺跡です

オグリと愉快な仲間達、あるいはブエナビスタの憂鬱

オグリ最強という違和感。 - 殿下執務室2.0 β1
オグリキャップという馬に関しては、個人的にはほとんど語るべき言葉を持っていません。その理由はまだケイバのケの字も知らない小学生だった頃の馬ということはもちろんですが、戦績を振り返ってみても決して「絶対的」な存在ではなかったオグリの本質を語るには、タマモクロスイナリワンスーパークリークとの激闘だったり、ホーリックスバンブーメモリーとの鍔迫り合いだったり、あまりにも劇的だった最後の有馬だったりを、ある程度空気感として把握していなければならないように思うからです。

オグリはディープインパクトサイレンススズカのような「アンライバルド」(皐月賞馬に非ず)な馬とは違う文脈で語られて然るべき、換言すると「同時代性」抜きには語れない馬だろうと、オグリ後世代の僕も想像する。

http://twitter.com/Southend/status/22977551974539264

というツイート(ブコメ)の意味はそういうことで、ディープの若駒ステークスやススズの金鯱賞のように、わかりやすい強さの「絶対性」というとっかかりがないというのは、結構大きな特徴なのでは……という気がします(JCのレコードに関しては、ホーリックスオセアニアの馬で、あれが唯一の日本での競馬だった、というあたりがネックかと)。
 試しに客観的な形で、オグリキャップがどういったライバル関係を築いていたかを見てみましょう。

  • オグリが出走していたレースで1着になったことがある馬

を対象にして、オグリとの対戦表を作ってみたのがこちら。

年度 レース オグリ ヤエノ タマモ イナリ スーパ オサイ
1988 毎日杯 ◯1着 ●4着
1988 天・秋 ●2着 ◯1着
1988 JC ●3着 ◯2着
1988 有馬 ◯1着 ●2着 ●失格
1989 毎日王 ◯1着 ●2着
1989 天・秋 ●2着 ●4着 ●6着 ◯1着
1989 JC ◯2着 ●11着 ●4着
1989 有馬 ●5着 ●6着 ◯1着 ◯2着
1990 安田 ◯1着 ●2着 ●3着
1990 宝塚 ●2着 ●3着 ◯1着
1990 天・秋 ●6着 ◯1着 ◯4着
1990 JC ●11着 ◯6着 ●13着
1990 有馬 ◯1着 ●7着 ●4着
TARGETの対戦馬表から目視で作ったので抜けがあったらご指摘下さい。さて、こうして見ると、3歳時はタマモクロス、4歳時はイナリワンスーパークリーク、5歳時はヤエノムテキオサイチジョージ、といった面々と、見事なまでに勝ったり負けたりしていたことがわかります。特に、これまで僕は全く認知できていなかったんですが、オグリ自身が衰えを見せ始めていた5歳時のヤエノ・オサイチとの仲良しぶりは、こうやって戦績を振り返ってみるだけで面白くなってきてしまうなぁと。
 しかしこの辺のライバル関係と、例えば3歳時はグラスペに敗れ、5歳時は3歳馬のジャングルポケットマンハッタンカフェに敗れて、4歳時にはドトウやトプロや本格化前のステゴを相手に勝ちっぱなしだった……というテイエムオペラオーあたりの巡り合わせとを比べてみると、なかなか味わい深いものがあります。


▼一方で、現在の「最強(牝)馬」であるところのブエナビスタについてはどうでしょうか。同じ条件で作ってみた表がこちら。

年度 レース ブエナ アンラ リーチ レッド ヤマニ クイー ドリー ナカヤ ローズ ヴィク
2008 新馬 ●3着 ◯1着 ◯2着
2009 チュー ○1着
2009 桜花賞 ◯1着 ●2着
2009 優駿 ◯1着 ●2着
2009 札幌記 ●2着 ◯1着
2009 秋華賞 ●3着 ◯1着
2009 エリ女 ●3着 ◯1着
2009 有馬 ●2着 ●15着 ●13着 ◯1着
2010 京都記 ◯1着 ●3着
2010 ヴィク ◯1着 ●4着
2010 宝塚 ●2着 ●4着 ◯1着
2010 天・秋 ◯1着 ●10着
2010 JC ●2着 ●14着 ◯1着 ●3着
2010 有馬 ●2着 ●14着 ●13着 ●取消 ◯1着
こうして見ると、違いがはっきりわかる気がします。
 まずに大きいのが、「案外色んな馬に負けている」こと。これが、ウオッカあたりと違ってなまじ成績が安定しているだけに余計、降着も含めて「本来なら負けないはずの相手に取りこぼしている」印象を強く与えてしまっているのかなと。
 そして、「ライバル(となりうるはずの)馬が早々にピークアウトしてしまっている」こともまた特徴的です。同じ牝馬だと、本来ウオッカにおけるダイワスカーレットになるべき存在だったレッドディザイアが鼻出血を一因とすると思われる能力低下・海外(アメリカ)指向によって実質姿を消し、エリ女で苦杯を喫したクイーンスプマンテはクラブ規約により「勝ち逃げ」。牡馬に目を向けると、「伝説の」新馬戦で先着を許した2頭は故障と路線変更、ヤマニンキングリーは大スランプに陥り、ドリームジャーニーはさすがに寄る年波には勝てないかという近走成績*1ナカヤマフェスタは(おそらく)JCのレース中に傷んで有馬を回避、繰り上がりでそのJCを制したローズキングダム疝痛でやはり有馬を回避。
 ……僕は一口者としても、また単なる競馬ファンとしても、ブエナビスタを稀代の名牝だと思っています。しかしこの有様を見ると、それとは別次元でこう言いたくもなります。

ブエナビスタは稀代のサゲマンである


と。
 ……ヴィクトワールピサの無事を衷心より祈ります。他ならぬ、ブエナビスタのためにも。

*1:現在は有馬記念のレース中に球節を傷めて放牧へ