オグリと愉快な仲間達、あるいはブエナビスタの憂鬱
●オグリ最強という違和感。 - 殿下執務室2.0 β1
▼オグリキャップという馬に関しては、個人的にはほとんど語るべき言葉を持っていません。その理由はまだケイバのケの字も知らない小学生だった頃の馬ということはもちろんですが、戦績を振り返ってみても決して「絶対的」な存在ではなかったオグリの本質を語るには、タマモクロスやイナリワンやスーパークリークとの激闘だったり、ホーリックスやバンブーメモリーとの鍔迫り合いだったり、あまりにも劇的だった最後の有馬だったりを、ある程度空気感として把握していなければならないように思うからです。
オグリはディープインパクトやサイレンススズカのような「アンライバルド」(皐月賞馬に非ず)な馬とは違う文脈で語られて然るべき、換言すると「同時代性」抜きには語れない馬だろうと、オグリ後世代の僕も想像する。
http://twitter.com/Southend/status/22977551974539264
というツイート(ブコメ)の意味はそういうことで、ディープの若駒ステークスやススズの金鯱賞のように、わかりやすい強さの「絶対性」というとっかかりがないというのは、結構大きな特徴なのでは……という気がします(JCのレコードに関しては、ホーリックスがオセアニアの馬で、あれが唯一の日本での競馬だった、というあたりがネックかと)。
試しに客観的な形で、オグリキャップがどういったライバル関係を築いていたかを見てみましょう。
- オグリが出走していたレースで1着になったことがある馬
- ただし地方馬・海外馬除く
を対象にして、オグリとの対戦表を作ってみたのがこちら。
年度 | レース | オグリ | ヤエノ | タマモ | イナリ | スーパ | オサイ |
1988 | 毎日杯 | ◯1着 | ●4着 | ||||
1988 | 天・秋 | ●2着 | ◯1着 | ||||
1988 | JC | ●3着 | ◯2着 | ||||
1988 | 有馬 | ◯1着 | ●2着 | ●失格 | |||
1989 | 毎日王 | ◯1着 | ●2着 | ||||
1989 | 天・秋 | ●2着 | ●4着 | ●6着 | ◯1着 | ||
1989 | JC | ◯2着 | ●11着 | ●4着 | |||
1989 | 有馬 | ●5着 | ●6着 | ◯1着 | ◯2着 | ||
1990 | 安田 | ◯1着 | ●2着 | ●3着 | |||
1990 | 宝塚 | ●2着 | ●3着 | ◯1着 | |||
1990 | 天・秋 | ●6着 | ◯1着 | ◯4着 | |||
1990 | JC | ●11着 | ◯6着 | ●13着 | |||
1990 | 有馬 | ◯1着 | ●7着 | ●4着 |
しかしこの辺のライバル関係と、例えば3歳時はグラスペに敗れ、5歳時は3歳馬のジャングルポケット・マンハッタンカフェに敗れて、4歳時にはドトウやトプロや本格化前のステゴを相手に勝ちっぱなしだった……というテイエムオペラオーあたりの巡り合わせとを比べてみると、なかなか味わい深いものがあります。
▼一方で、現在の「最強(牝)馬」であるところのブエナビスタについてはどうでしょうか。同じ条件で作ってみた表がこちら。
年度 | レース | ブエナ | アンラ | リーチ | レッド | ヤマニ | クイー | ドリー | ナカヤ | ローズ | ヴィク |
2008 | 新馬 | ●3着 | ◯1着 | ◯2着 | |||||||
2009 | チュー | ○1着 | |||||||||
2009 | 桜花賞 | ◯1着 | ●2着 | ||||||||
2009 | 優駿牝 | ◯1着 | ●2着 | ||||||||
2009 | 札幌記 | ●2着 | ◯1着 | ||||||||
2009 | 秋華賞 | ●3着 | ◯1着 | ||||||||
2009 | エリ女 | ●3着 | ◯1着 | ||||||||
2009 | 有馬 | ●2着 | ●15着 | ●13着 | ◯1着 | ||||||
2010 | 京都記 | ◯1着 | ●3着 | ||||||||
2010 | ヴィク | ◯1着 | ●4着 | ||||||||
2010 | 宝塚 | ●2着 | ●4着 | ◯1着 | |||||||
2010 | 天・秋 | ◯1着 | ●10着 | ||||||||
2010 | JC | ●2着 | ●14着 | ◯1着 | ●3着 | ||||||
2010 | 有馬 | ●2着 | ●14着 | ●13着 | ●取消 | ◯1着 |
まずに大きいのが、「案外色んな馬に負けている」こと。これが、ウオッカあたりと違ってなまじ成績が安定しているだけに余計、降着も含めて「本来なら負けないはずの相手に取りこぼしている」印象を強く与えてしまっているのかなと。
そして、「ライバル(となりうるはずの)馬が早々にピークアウトしてしまっている」こともまた特徴的です。同じ牝馬だと、本来ウオッカにおけるダイワスカーレットになるべき存在だったレッドディザイアが鼻出血を一因とすると思われる能力低下・海外(アメリカ)指向によって実質姿を消し、エリ女で苦杯を喫したクイーンスプマンテはクラブ規約により「勝ち逃げ」。牡馬に目を向けると、「伝説の」新馬戦で先着を許した2頭は故障と路線変更、ヤマニンキングリーは大スランプに陥り、ドリームジャーニーはさすがに寄る年波には勝てないかという近走成績*1、ナカヤマフェスタは(おそらく)JCのレース中に傷んで有馬を回避、繰り上がりでそのJCを制したローズキングダムは疝痛でやはり有馬を回避。
……僕は一口者としても、また単なる競馬ファンとしても、ブエナビスタを稀代の名牝だと思っています。しかしこの有様を見ると、それとは別次元でこう言いたくもなります。