馬の気持ちはわからない(一口馬主遺産)

『馬の気持ちはわからない(『傍観罪で終身刑』改メ)』(http://d.hatena.ne.jp/Southend/)の移転先にして遺跡です

そろそろ外国人馬主問題について一言いっておくか

外国人馬主09年JRA参入、国内には配慮 - 競馬ニュース : nikkansports.com

 (1)内国産馬の所有義務付け 最初の4頭は内国産馬でなければならず、5頭目外国産馬が認められる。すなわち、外国産馬の所有割合は5頭に1頭。

 (2)入厩頭数制限 導入初年度は上限10頭、2年目15頭、3年目20頭。国内居住馬主の上限100頭より大幅に低く設定される。

 (3)共有不可 100%自己所有でなければならず、共有は認められない。

 これらの制限策は3年後をめどに検証され、制限緩和等の見直しが行われる。

という内容で、生産者代表の承認を得た、とかいう話。生産者間でどれだけコンセンサスが取れてる話なのか分かりません(実際ブログで「聞いてないよー」とか書いてる馬産家がいるとかいないとか)が、まぁそういう方向で動いていることは間違いなさそうです。
 正直日本競馬に馬主として参入したいと思っている外国人がどれだけいるのかっていうのは想像を絶するんです(ドバイの殿下はやりたいと思ってる、と代理人ファーガソンが言ってる記事は読んだことがあります)が、そのへんどうなんでしょうね。オーナーブリーダー以外で馬主業で純粋に儲けを出してるのって、どの程度いるものかという話で、プレイヤーもどきをしている感覚としては、割に合わないビジネスとしか思えません。


▼大体外国産馬所有制限とか言っても、競走馬(と受胎中の繁殖牝馬)に1頭あたり340万円の関税(参考)がかかるのは前と変わらないわけで、急激に上がった内国産馬(というか社台血統)のレベルに抗しえず、ここ10年ほどマル外が受難の時代を迎えているのは

あたりですでに指摘した通り。それと国内馬産との関係については、

現在、マル外を輸入しようと思ったら、関税340万円、経費込みで1頭当たり500万円以上は確実に掛かります。その分で、日本馬産の人件費を中心とした高コスト構造は、対外国産馬という面で十分すぎるほどのフォローをされていると考えていいでしょう。1歳馬の国内平均取引額が500〜900万円という市場で、これだけのハンディ貰って勝てないようなら、そんなメーカーは要らないや、っと。

結局最大のガンは“甘さ”なのか - 馬の気持ちはわからない(『傍観罪で終身刑』改メ)

と書いた頃と、見解としては変わりません。たとえ(海外に居住する)外国人馬主がフリーハンドになったとしても、です。今の日本馬産は、(調整局面に入ってきているとはいえ)まだまだ供給>需要なわけですから、多少マル外の流入が増えようとも、それと共にプレイヤー(バイヤー)としての馬主の絶対数(あるいは資金)が増えるのなら、無条件で歓迎すべきことなんじゃないの、と思うわけです。ましてや「4頭に1頭ルール」なんてアホらしいものが本当に適用されるような状況においておや。


▼関連すると思われる、ちょっと興味深い古記事を見つけたのでちょっと紹介。

 競走馬に対し、400万円の関税をかけてすら、この程度の馬しか入ってこないことを考えると、もしこの400万円の関税がなくなったならば、どんなに質の悪い馬が、わが国に流れこんでくるかは、想像にあまりあると思う。
 国内は生産過剰だというのに、素質のわるい馬が大量に入ってくることは、これらがやがては繁殖界に入っていくから、わが国の軽種生産のレベル・ダウンに役立った以外のなにものでもない。
(中略)
 わが国の軽種生産の現況は、誰でも知っているように、数年前から生産過剰の状態にある。馬の資質の向上のために優秀な馬は必要だが、劣等馬はいかなる意味でも必要ないのである。

 そしてまた、わが国の軽種の値段は賞金が高いために、一流馬は別にして、欧米の諸外国よりもはるかに高いのである。
 だから、400万円の関税が万一撤廃されたならば、オーストラリア、ニュージーランド等からどっと競走馬が入ってきて、ぜい弱なわが国の軽種生産の基盤は、音を立ててくずれていくことは明らかである。
 400万円関税は、ぜひ今後も継続してはしいものだ。

佐藤正人:わたしの競馬研究ノート・シリーズ

昭和48年の記事だそうで。JBBAの統計資料によると、確かにこの時期の生産種付頭数は右肩上がりで、ピークの1975年(昭和50年)には19,048頭(サラ14,349頭・アラ4,672頭)。ここから一旦減少フェーズに入り、バブルの頃にまた上昇に転じて1991年に18,767頭(サラ15,287頭・アラ3,450頭)と次のピークを迎えた後は、アラ系の生産がほぼなくなったこともあって、急激に減少しています。
 しかし、ここ数年サラ系生産種付頭数は10,000頭ちょっとで下げ止まりの傾向。馬余り傾向は解消されていないにも関わらず、です。まだまだ多いよ! と思うわけで、これ以上調整局面が続かないようなら、あとはプレイヤーを増やすか、もしくは国外に持っていくしかないだろう、と。
<追記>
上記数字は「生産」ではなく「種付牝馬」頭数でした、失礼しました。論旨に影響はありませんが、生産頭数統計はhttp://www.jbba.jp/statistics/seisan.htmlをご覧ください。
</追記>



▼最近は質の高さを売りに、野菜・果物や魚介類など「普通の農産物」の、海外(の主に富裕層向け)への輸出が急激に伸びていると聞きます。ならば、日本の馬産界もその方向に目を向けるべき時代なのではないかと。そのためには、わざわざ日本に来て下さるという外国人の金持ちを、むしろ諸手をあげて歓迎すべきではないのかと思うわけです。日本で使ってもらってもいいし、日本産馬の質の高さ(と日本競馬のやりにくさ)が実感として認められれば、勝手に海外へ持って行ってくれるようにもなるでしょう。
 そして、安いマル外をたくさん抱えて日本の高額賞金をかっぱごうという(無理筋な)外国人馬主がもし現れたとしても、関税という城壁の上からサンデー砲を撃ちまくって、散々に敗走させてやればいいじゃないか、と思うわけです。もし逆に太刀打ちできないような良血馬を大量に持ってこられてにっちもさっちもいかなくなれば(そんな仮定は今やナンセンスですが)、謹んでその血(の一部)を押しいただき、日本馬産のさらなるレベルアップにつなげればいいじゃないか、と。それができないような(以下略
 まぁ、他人事だから簡単に書けることではあるんですが。


▼結論としては、「関税を引き下げる」とかいう話になったらそれなりに頑張って抵抗すればいいと思いますけど、それ以外の規制緩和はむしろビジネスチャンスの純粋な拡大と捉えた方が、色んな意味でいいんじゃないですかね……といったところ。
 では、今日の競馬がまた始まるので、そろそろこの辺で。