馬の気持ちはわからない(一口馬主遺産)

『馬の気持ちはわからない(『傍観罪で終身刑』改メ)』(http://d.hatena.ne.jp/Southend/)の移転先にして遺跡です

結局最大のガンは“甘さ”なのか

<市場取引頭数集計>

当歳 1歳 2歳 世代全体 中央登録
世代 生産数 出場 成立 出場 成立 出場 成立 出場計 成立計 売却率 対生産数 (市)(抽)頭数
92年産 10407 211 37 1658 450 13 3 1882 490 26.0% 4.7% 416 84.9%
93年産 10188 167 36 1746 443 15 5 1928 484 25.1% 4.8% 275 56.8%
94年産 9987 129 36 1557 427 35 16 1721 479 27.8% 4.8% 275 57.4%
95年産 9212 75 19 1483 458 216 99 1774 576 32.5% 6.3% 343 59.5%
96年産 9045 65 19 1680 482 235 135 1980 636 32.1% 7.0% 424 66.7%
97年産 8668 166 61 1910 699 257 166 2333 926 39.7% 10.7% 592 63.9%
98年産 8493 430 204 2295 868 306 197 3031 1269 41.9% 14.9% 836 65.9%
99年産 8527 437 231 2639 922 397 238 3473 1391 40.1% 16.3% 884 63.6%
00年産 8624 456 220 2813 902 403 164 3672 1286 35.0% 14.9% 799 62.1%
01年産 8807 461 252 2795 694 222 102 3478 1048 30.1% 11.9% 652 62.2%
02年産 8747 525 244 2412 655 249 138 3186 1037 32.5% 11.9% 673 64.9%
03年産 8555 565 291 2429 699 390 216 3384 1206 35.6% 14.1% 764 63.3%
04年産 8261 704 350 2183 650 368 217 3255 1217 37.4% 14.7% 798 65.6%
05年産 7980 727 350 2303 879 3030 1229 40.6% 15.4%
06年産 7655 692 336 692 336 48.6% 4.4%



<市場取引成立馬集計>

当歳 1歳 2歳 世代全体
世代 成立 平均 中間 合計額 成立 平均 中間 合計額 成立 平均 中間 合計額 合計額
92年産 37 992 819 36704 450 725 525 326250 3 808 725 2424 365378
93年産 36 1128 906 40608 443 723 525 320289 5 841 516 4205 365102
94年産 36 741 525 26676 427 660 515 281820 16 804 603 12864 321360
95年産 19 1760 1040 33440 458 630 515 288540 99 882 599 87318 409298
96年産 19 1369 1030 26011 482 722 536 348004 135 962 593 129870 503885
97年産 61 2134 2100 130174 699 689 525 481611 166 853 735 141598 753383
98年産 204 2899 2048 591396 868 653 525 566804 197 1023 683 201531 1359731
99年産 231 2664 1680 615384 922 625 525 576250 238 904 630 215152 1406786
00年産 220 3148 1948 692560 902 607 473 547514 164 788 672 129232 1369306
01年産 252 2479 1712 624708 694 548 420 380312 102 756 525 77112 1082132
02年産 244 2554 1575 623176 655 511 420 334705 138 744 525 102672 1060553
03年産 291 2833 1785 824403 699 524 420 366276 216 563 368 121608 1312287
04年産 350 2653 1890 928550 650 562 420 365300 217 674 525 146258 1440108
05年産 350 2707 2100 947450 879 866 431 761214 1708664
06年産 336 2998 1853 1007328 1007328
※ソースはJBBAサイトの統計資料とTARGET集計
<追記:この表、ウチのPC画面だとギリギリ表示崩れずに見られるんですが、いかがでしょうか・・・・・・>

▼どこを見ればいいんだというデータですが、とりあえずポイントとしては、「生産調整局面が顕著になった2005年産以降、市場取引動向においては底を脱し、改善の兆しが見られる」ってとこでしょうか。あと、大体市場取引馬の65%前後が中央入りして、1・2歳馬取引の中間価格が400〜500万で下げ止まってるってところもポイントかも。この4〜500万ってのは種付料+繁殖牝馬減価償却費+育成費+諸経費って考えていくとギリギリのラインかと思いますが、中央だけ見て商売している限り、8割方はクリアできるという大雑把な計算になります。あとは、市場で売れ残った6割を、別の販路や高額落札馬の利益でどこまでフォローできるかという話になりますか。いや違う、まだ生産頭数が多すぎるんだな多分。
 しかし、市場(セリ)で売れる馬って生産頭数全体のまだ15%程度なんですね。結果的に「誰にも売れなかった」馬がどれぐらいいるのかは分かりませんが、それと、オーナーブリーダー(牧場系クラブ含む)の分を除いても、まだまだ庭先が多すぎるような気はします。


▼まぁそのデータは直接関係ないんですが(えー)、おりたさんからいただいたブクマコメントの

地方競馬向け生産が無くなるのは、種馬事業に直結する、馬産が無くて競馬が存続できるかどうか。

っつうのは、個人的にはどうも悲観的というか、感傷的に過ぎる気がします。というか、当該エントリは「地方競馬がなくなってもマクロとしての馬産が(種馬事業も含め)致命的なダメージを受けることはないと思うよ」という主張を自分なりの論理で懇切丁寧に説明したつもりのものだったわけですが、あまりの読まれてなさにちょっと苦笑しました。
 馬券的な規模の話から入ると、中央の売上が2.9兆。一方、ホッカイドウが100億、岩手が300億、南関4場で2000億、金沢・笠松・名古屋で400億、兵庫・福山・高知で500億、佐賀と荒尾で200億。まとめると、

  • 中央:29000億
  • 南関: 2000億
  • 残り: 1500億

なわけで、売上比率から言えば生産界の地方への依存率は全体の10%ちょいという推測が表面的には可能。ただ、これはナンセンスな推測で、馬の価格帯と、リソースの流れ方(要するに地方馬の多くは中央の払い下げ)を考慮すれば、マクロな視点から見た地方競馬崩壊の馬産界への経済的影響ってのは、10%どころか5%に届くかも怪しいんじゃねえの、という気がします。
 もっとも生産頭数の割合でいうと、10%どころかパイの半分は無くなっちゃうよ! という計算も成り立つのは確かで、BIRDさんの記事をお借りすると、

さて、生産頭数が減りつづける中でJRA入厩馬が増え続けると言うことは、当然ながら地方入厩馬のレベルを押し下げていることは明らかだろう。生産頭数がピークとなった92年生まれ10,309頭のうち4,575頭(94年2歳)が中央に登録され、地方へは残る5,734頭から選ばれた馬が入厩していることになる。より良質で競走能力の高い馬が中央へ入っていると仮定すると、地方へはあまり良質ではない下位56%のうちから選ばれていることになる。
これに対し03年生まれの8,507頭の場合、4,873頭が中央入りし、残る3,634頭から選ばれることになる。これは下位の43%から選ばれているという計算になる。機械的な算数だが実態とそんなにずれはないだろう。

Racing Blog:生産地とか馬主とか、改めて概観してみる - livedoor Blog(ブログ)

という概況になりますか。で、やっぱり大変な事態じゃないか! と聞かれたら、答えは「この記事を見てみたら」の一言に尽きます。
http://www.yomiuri.co.jp/gourmet/news/20050824gr01.htm
サラブレッドはねぇ、ここ10年ぐらい豊作が続いてたんですよ、結果的に見て。敢えて感傷的な物言いをするなら、かわいそうなのは生産者じゃない、(無為に生産されてきた、残り43%のうちの何割かの)馬でしょう、と。



▼もちろん地方競馬の衰退によって、「売れ残りを自分で地方に使う」みたいなメソッドが使えなくなるのは痛手なところも多いでしょうし、馬資源の流動性が損なわれるという問題点は小さくありませんが、だからって「だから地方競馬は残すべきだ」というのは都合の良い論理過ぎるかと。ましてやそれを生産者サイドが自分で言うなんて手前勝手すぎるよなぁ、という話です。まず市場ありきで、生産はそれに合わせるのが筋、どうしても規模を維持したければ市場拡大努力に自ら傾注すべきで、それができないのは自己責任、と。
 できないとは言わせませんよ、だって社台はやってるんですから。ねえ“日高”の皆さん。
 ただ、大井の外国馬導入反対の音頭まで取っちゃうカッツミーはちょっと経営努力しすぎって気もしますけど。
<参考>

今回、生産者団体がしょっぱい抗議行動を起こしているわけですが、団体の代表者が吉田勝巳氏なんですよね。

http://yosouka.net/cgi/mt/archives/000564.html

まぁ実際は単なる「ご近所づきあい」ぐらいのものなのかもしれませんが。



<関連>

夜明け前の一番暗い時間帯なのかなと、個人的にはむしろ少しホッとした気分もある。

Racing Blog:生産地とか馬主とか、改めて概観してみる - livedoor Blog(ブログ)

▼散々暗いことを書いてますが、市場取引馬の価格動向を見る限り、自分もこのBIRDさんの感覚を共有する一人。

04年の生産頭数8,242頭の80%前後は売れたことになる。売り手としては100%売れるのが理想だろうが、競走馬である以上勝てないとわかっている馬を買うわけにはいかない。そういう意味で80%売れていれば、売却価格に問題は残るが、一応満足すべきレベルだと思うのだが、生産者団体は能力の有無にかかわらず何が何でも内国産馬で競馬をやって欲しいというあたり、もうそんなこと言ってる時代じゃない、買う価値のある馬が残っていない。数字がそれをはっきり示していると思うがどうだろう。

Racing Blog:生産地とか馬主とか、改めて概観してみる - livedoor Blog(ブログ)

▼売れない商品を作ったら損するだけ、という簡単な原則がどうして理解されないんでしょうね。
 槍玉に挙げられる外国産馬・外国馬にしたって、現在、マル外を輸入しようと思ったら、関税340万円、経費込みで1頭当たり500万円以上は確実に掛かります。その分で、日本馬産の人件費を中心とした高コスト構造は、対外国産馬という面で十分すぎるほどのフォローをされていると考えていいでしょう。1歳馬の国内平均取引額が500〜900万円という市場で、これだけのハンディ貰って勝てないようなら、そんなメーカーは要らないや、っと。
 感傷論者は、家族経営レベルの馬産家の努力をよく指摘しますが、部外者から見れば、むしろサラブレッド生産にそうまでして拘る理由が知りたいところ。もしかして、万が一そんなことはありえないと思いますけど、コメ農家や食用畜産と混同してねーかと聞きたいです。
<追記:違うか、逆に馬産家を職人とか芸術家とかあたりと同一視したいのかもしかして。>



▼で、結局この生産者サイドとの意識の齟齬がどこからくるのかというと、

家族経営の牧場に
それだけの育成施設を作れるか?
例えて言えば、おまえの家に
日本一を争うジムを作れるのか?

大井外国馬導入について(補足):馬の写真with余計な一言:So-net blog

結局はここですかね。“牧場”を“主催者”、“育成施設”を“競馬場”とすれば、地方競馬にも当てはめられる意識でしょう。要するに、古き良き日高、古き良き日本競馬の幻想を捨てられない甘さ。家族経営が今後も十全に成立しうる(というかして欲しい、しなければならない、できる日本競馬でならなければならない)という妄想。日本競馬は(上から下まで)総じて守られなければいけない、という無根拠な特権意識。これはなんとも根が深そうです。