馬の気持ちはわからない(一口馬主遺産)

『馬の気持ちはわからない(『傍観罪で終身刑』改メ)』(http://d.hatena.ne.jp/Southend/)の移転先にして遺跡です

納得したことと、できないこと

▼飽きもせず馬インフルエンザ関連のエントリを起こすことをお許しください(誰に乞うてるのか)。


▼まず、納得したこと。

東西トレセン自体が隔離施設であって、そこにいる馬達で競馬をする分には問題ないだろう。馬の移動措置については、禁止にしたままなのだから、十分な防疫措置は取られているという意見です。

これについては、もうなんといいますか、コメントする気にもなれなくなってくるのですけど、ウィルスというのは例え個体に触れなくても感染する空気伝染をするんですね。オーストラリアでの感染経路もそのようですが、「人間がウィルスを運ぶ」という面があるのです。

陽性馬が競馬場に出てくると、競馬場にはたくさんの人がいますよね。それも出走馬達はパドックで呼吸をするわけですから、ウィルスを持っている馬はウィルスを空気中に撒き散らしますよね。それが人間の衣服であったりに付着しますよね。そして、その人がどこに行くのかなんて分からないですよね。

これで、どうやって感染拡大の防止策を万全に取っていると言えるのでしょうか?

http://yosouka.net/cgi/mt/archives/000639.html

 僕(ですよね?)が投げかけた、気分が乗らないようなアホらしい疑問にもお答えくださってありがとうございます。空気感染(飛沫核感染)なのだから、衆人環視の状況=競馬場に保菌馬をたくさん(と断言しちゃっていいでしょう)連れて行って競馬をするのはナンセンス、と。非常に納得しました。というか、まぁヒトのインフルエンザと関連付けて考えれば当たり前なんですが、一応明確に説明しておいてもらいたかったので。


 あと、もうひとつ同様のご意見を見つけました。検索でたまたまたどり着いた初見のブログだったんですが、ヒト医療の従事者さんだそうで、非常に分かりやすいご説明をされてるので紹介させていただきます。

インフルエンザウイルスは、体内から出たあと空気中を長時間さまよい続けます。
だから隔離が必要なのです。
人インフルエンザと馬インフルエンザが大体同じと考えると、
レース開催はありえないと私は思います。

http://blogs.yahoo.co.jp/szka_everlasting/18250959.html

要点だけでも長くなるので、結論部分だけ引用させていただきましたが、前後の説明こそがキモですので是非リンク先の全文をご覧いただければと。


 というわけで、これらのご意見で、僕の判断は(以前に比べれば)かなり「開催強行疑問視」側に動きました。「え、これだけクリティカルなことを言われてまだ“疑問”かよ、“否定”だろ常(識的に)考(えて)」という話ではありますが。
 じゃあまだ残っている疑問ってのはなんなんだというと、「なんでそんな分かりきったこと(競馬開催によって、空気感染により観客を媒介して施設外への感染拡大の危険性がある)を、(獣)医学のプロが沢山いるJRAが総体として無視してのけているのか」という点です。ノモケンが書いている政治的判断とか、単なる目先のお金目的とか、色々取り沙汰されてますが、それらが決めるのはあくまで「ベクトル」であり、誰の目にも明らかな疫学的「開催ストッパー」が機能していれば、「さすがの」JRAも強行は難しいと僕はまだ思っているのです(甘い、と言われればそれまでですが)。
 では、そのストッパーとはなにか。「ヒトには伝染しないと思ってるからだろ」という身も蓋もない見解もあるでしょうけど、間にもう一段階考えられるかなと。実は以下も、先ほど引用した『橙色は止まらない』さんのエントリにあった記述なんですが、

でも、ウイルスを持っていても発症(咳やくしゃみ、発熱、鼻汁、関節痛などの症状が出る)していなければ、
当然、咳でウイルスを排出することもなければ、くしゃみでウイルスを撒き散らすこともありません。
だから、報道でよく言ってる「陽性馬○頭!」という陰性・陽性ではなくて、発症馬の数が大切で、
発症馬がゼロになれば開催も問題ないのではないかと思います。

http://blogs.yahoo.co.jp/szka_everlasting/18250959.html

そう、僕が容認できる最後の、開催容認(肯定とまでは最早とても言えない)側からのエクスキューズはこれです。単なる「呼気」による撒布によっては、ほぼ感染拡大することはないはずだ、と。
 それはつまりどういうことか。ものすごく簡単に書くと、

発症馬が競馬しなければいい

ということですね。これだけだとバカじゃねーのと思われそうなので(概ね事実なので困りませんが)もう少し丁寧に書くと、「もし<発症馬の除外>という処置さえ厳密に運用できれば、競馬開催による感染拡大の可能性は、現状に比べても<ほとんど>増えないだろう」ということになります。これは、JRAが示した

<病気による出走制限について>
 競馬においては、世界共通のルールとして、レース出走前に発熱やケガの症状が認められれば出走することはできませんが、『発熱などの症状がなく、体調に問題がない』競走馬の出走が制限されることはありません。
 つまり、ウイルスなどが体内に侵入している状態(陽性)にあるか否かによって、出走の可否が決定されるものではなく、発熱などの症状による体調面で問題があるか否かによって出走可否が決定されるものです。
 したがって、馬インフルエンザについても、陽性か否かによって出走可否が判断されるものではなく、発熱などの症状があると認められた馬については出走できないということです。

http://jra.jp/news/200708/082201.html

というガイドラインにも沿った考え方ではないかと。


 で、それを踏まえて。

実際、先週の土日開催では「感冒による取り消し」が不自然に多かった

http://yosouka.net/cgi/mt/archives/000639.html

これ、不自然でもなんでもない気がするんですが。この状況で普段より感冒の症状を呈する馬が多いのは当たり前で、それは出走確定時に健康だった(もしくはそう思われていた)馬についても同じことでしょう。で、そうしたケースを「水際で食い止めることで公正確保に努める」というのは、開催者側が最初から示していた指針であり、むしろ「公正確保のために現場での厳密なチェックが為された」ことの証左かと(そもそも開催しない方が公正だという議論とはまた別次元の話として)。なにかこの点で思い違いをしていたら申し訳ありませんが。
 ちなみにここで言う「公正」とはJRAの言い分をそのまま引っ張っただけですが、さすがの僕も、馬インフルだろうがそうでなかろうが、「感冒(気味)の症状を出してる馬をそのままレースに出す」のはねーだろとは思います。ましてやこの状況下においておや。
 というわけで、ここについての蓋然性が完全に否定されてしまえば、もうあとは「やだやだ、それでもやっぱり競馬をやってくれなきゃやだ!」と駄々をこねるしかなくなります。って、んなこたぁしませんけど。



▼で、話は戻って納得できなかったこと。

先週の、土・日開催での出来事を振り返ってみましょう。

感冒による出走取り消し:8頭
故障関連:12頭
予後不良:2頭
心房細動:3頭

やはり、明らかにどの数字も、「全く通常と変わらない」とは言いがたい数字となっているのです。私は完全には調べていませんが、かなりさかのぼっても熱発による取り消しの数は勿論の事、1開催で3頭も心房細動が起こった週というのはありませんでした。

http://yosouka.net/cgi/mt/archives/000641.html

浄閑さんとこの話ばっかやんけ、という突っ込みも入りそうですが、読み応えがあるんでつい読んじゃうんですよね(エクスキューズ)。
 で、“完全には調べていない”とのことでしたので、こういう集計が三度の飯の次ぐらいに好きな(←変態)僕が調べてみました。結果はこちら。

種別→ 取消・除外 競走中故障 合計 備考
発表日 内科疾患 外科疾患 内科疾患 外科疾患 内科計 外科計 総計 予後不良
8/25,26 9 6 4 4 13 10 23 2
8/11,12 1 1 0 3 1 4 5 3
8/4,5 3 4 0 3 3 7 10 0
7/28,29 3 7 0 4 3 11 14 2
7/21,22 1 6 0 6 1 12 13 3
7/14,15 0 1 1 2 1 3 4 2
7/7,8 1 2 3 5 4 7 11 2
6/30、7/1 1 1 3 2 4 3 7 1
6/23,24 1 4 0 4 1 8 9 2
6/16,17 0 2 1 1 1 3 4 1
※北海道開催開始(2007/06/14)以降について集計
※ソースはJRA公式サイトのすべてのニュース JRA
競走中止であっても無傷であれば集計対象に含まず
※障害での転倒や他の馬の故障に巻き込まれるなどして発症した怪我についても集計対象に含まず
※但し、予後不良頭数については事象や理由に関係なく発表されたものを全て集計
※フレグモーネについては外傷性の可能性もあるが感染症と看做して内科に分類
※詳しい内訳についてはhttp://www16.ocn.ne.jp/~southend/disease.htmlをどうぞ(見難くてすいません)


 ・・・・・・さて、この数字を見て、皆さんどう思われるでしょうか。僕の判断は、感冒(25,26日で8頭取消)以外は全く通常取りうる数値の範囲内」というものなんですが。そして、感冒による取消が増えるのは全くもって自然な成り行きであるのも、上で述べたとおり。
 とりあえず浄閑さんの数字の挙げ方については、なぜ外科系疾患も含めてしまわれているのか(特に予後不良数を挙げることになんの意味があるのか)、なぜ呼吸器系の鼻出血ではなく循環器系の心房細動をことさらピックアップされてるのか(これは何か理由がおありなのかもしれません)、といった疑問もあるんですが、そんなことはともかく、なぜ過去の統計データを出さずに(つまり比較せずに)当該週だけの数字を明示し、それを根拠に結論ありきでコメントされているのかが全く理解できません。
 意図的かどうかは余人に判断できないところですが、「これは印象操作である」と、引いては「敵味方という色分けで話をしている」と言われても仕方ないんじゃないでしょうか? ちなみに関係あるかどうかは分かりませんが、心房細動は6/30,7/1の開催で計2頭、7/8と7/29にも各1頭出てます。


 もちろん、これだけをもって氏の言説全てを否定するつもりは毛頭ありません。というかむしろ、このエントリで取り上げなかった部分も含め、論旨の大筋では概ね納得できると思っているだけに、尚更こういう姿勢が残念だ、というのが率直なところです。


 あと、関係ありませんが、予後不良の数を集計していたらさすがにヘコみました。「競馬がなければ馬は死ぬ」というのは自分で言ったことですが(論理的な表現ではないことは繰り返しておきます)、それはあくまで巨視的な把握であり、近視眼的には「競馬が馬を死なせている」というのも事実・・・・・・という当たり前のことに向き合わされた感じです。僕の立場では、最終的には目をつぶるしかないんですけど。


▼結局、「白か黒か」では片付かない問題なんだと思うんですよね。「黒だ」側のご指摘は概ねいちいちごもっともなんですが、JRAとしても開催決定が「白だ」とはおそらく思っていないでしょう。もちろん僕もそうです。ていうか無条件な白側の人なんてほとんどいないでしょうし。ただ、ある程度リスクを取っても開催したいという動機と閾値というものがあり、その「灰色」の部分が許容範囲かどうか、という判断は、立場によって大きく異なるはずです。
 「その立場は変えられないんだから、いちいち突っ込むなよ」という話ではあるかもしれません。しかし、

 一応広義のマスコミに属する人間でありながらマスコミ不信を語るのは変な話だが、理不尽な叩きと殻にこもるJRA、という構図になるともう収拾がつかなくなる。競馬に携わるあらゆる立場の人間でモラルと節度と誠意を意識していきたい。

http://www2.diary.ne.jp/logdisp.cgi?user=70345&log=20070824

という須田氏の考えに共鳴し、自分の立場からなるべく誠意ある言説を述べていきたい、と願っての行動であることはご理解いただけると有難いなぁと。もう少し具体的に書くと、灰色側の立場の人間としては、黒側(と書くと見た目的にアレですが、他意はありません)のご意見の中でもprincipleに過ぎるのではと感じたものについて、もっとpracticalな判断もありえるのでは、という疑義を投げかけていくのが誠意かな、といったところですかね。


 まぁ、一連の流れを踏まえて、灰色ゾーンの中でもかなり黒寄りの考え方になってきているのも確かではあるんですが・・・・・・。途中でちょっと触れたノモケンのコラムにも、突っ込みどころもあるとはいえ結構考えさせられましたし、引用させていただいた『橙色は止まらない』さんの真摯な姿勢にも心動きました(浄閑さんのエントリについても勿論影響されてます)。
 やっぱり、体制側につくってのはなかなか難しいですし、労多くして得るものは少ないなぁと痛感。もちろんできれば競馬をやってほしいという気持ちに変わりはありませんが・・・・・・。