馬の気持ちはわからない(一口馬主遺産)

『馬の気持ちはわからない(『傍観罪で終身刑』改メ)』(http://d.hatena.ne.jp/Southend/)の移転先にして遺跡です

惜別の辞(登録抹消馬2010)

  • 3月
    • ウインプラチナム
      • 名牝ダイヤモンドビコーの初仔。育成当初は柔らかい動きと背中の良さでさすが血統馬という評価を得ていましたが、2歳夏に「右前トウ骨遠位端剥離骨折」を発症。秋口には回復して入厩に漕ぎ着けましたが、今度は繊細さと体質の弱さを見せて馬体が細化し放牧へ。結局デビュー時期は大幅にズレこんでしまいました。3歳3月に中山の芝マイルで横山典弘騎手を背中にようやくの初出走。1.6倍の断然人気に推されながらも3着。その後もなかなか身が入ってこず、特にトモの力のなさがネックで一押しがきかないレースが続き、結局未勝利戦では勝ち上がれず。園田で連勝して出戻った後も精彩を欠くレースぶりで、5歳春まで粘りましたがとうとうギブアップ。素質は十分足りるだけのものがあったと思うんですが、最後まで体質の弱さが解消されませんでした。初仔の難しさでしょうか。いつか彼女の産駒でリベンジを果たしたいと思いますが、とりあえずは半妹のジュビリーに期待。姉と違い馬格には恵まれたものの、パワー不足を指摘されるあたりは彷彿とさせる面もあって、なかなか難しい血統です。
  • 4月
    • ワイドスプレッド
      • デビュー戦4着も、その後は尻すぼみ。飼い葉食いの悪さからパンとしてこなかったのが大きな要因ではなかったかと思っています。3戦を消化した後、歩様の悪さを見せて放牧。原因は最初蹄、次に骨膜と診断されましたが、年が明け、春になっても改善が見られず。3歳4月、解明のため社台ホースクリニックで全身麻酔をかけてのレントゲン検査を行ったところ、頸椎付近に異常を確認、さらに麻酔からの覚醒時に神経系統にも異常を来たし、起立困難な状態に陥ってしまいました。残念、としか言いようがありません。
  • 5月
    • オフィサー
      • 長い間うちの屋台骨を支えてくれたこの馬でしたが、8歳にしてついに引退。都合51戦、よく戦ってくれました。重賞には手が届きませんでしたが、オープン勝ちに準オープン2勝、また勝てない時も、自分の競馬ができれば確実な末脚を発揮。そしてなにより、大きな怪我もなく、2歳から7歳まで1〜2ヶ月に1走のペースを保ち続けた無事是名馬ぶりがなによりの勲章ではなかったかと思います。
    • ロードクリムゾン
      • 初芝となった未勝利戦で、繰り上がりながら単勝万馬券での勝利。昇級してからも目を引く末脚を見せてくれる場面はありましたが、馬体維持に難があってコンスタントに使えず、結局500万下では一度も掲示板に乗れませんでした。ちなみに繰り上がり優勝時に失格となったトップキングダムは、つい先日3勝目をマーク。運命の機微を感じます。
  • 6月
    • ロードギャラクシー
      • 河野厩舎が話題になった時期に出資を決めた記憶があります。馬自体もそれなりに評判になったんですが、思うような結果が出ず、三浦騎手との師弟コンビも4戦目まで。最後は障害戦まで視野に入れるなど、道を模索してはもらいましたが、故障で万事休す。残念な思い出ばかりの1頭です。
  • 8月
    • ウインスペンサー
      • 名門池江泰郎厩舎で4歳秋までに4勝。それまでのレースぶりからさらに上も目指せると思っていましたが、以後は気性的な問題が表面化し思うような競馬ができず。自然出走機会は減り、それを求めて転厩した先の牧浦厩舎でも状況は変わらず。最後の望みを賭けた障害転向も、気性の懸念を騎手に指摘されて結局形にはならず。持てる能力を出し切れないもどかしさを、思う存分味わわせてくれました。物言わぬ馬との対話は本当に難しいことでしょうし、素人がなにか言えるようなことはないんですが、せめて「やるだけやった」感は欲しいものだ、というのが正直なところでした。
    • コロナループ
      • 脚元や喉の違和感でスムーズにはいきませんでしたが、スピードには見るべきものがあり、休み休みながらも未勝利・500万下と勝利。降級前に2勝目を挙げられたことで、将来の展望が大きく拓けた……と思った矢先、放牧先で突然逝ってしまいました。無念の一言です。
    • ウインイージス
      • トモの甘さから本格化は遅れましたが、平坦コースに絞って我慢強く使われ、5歳夏にようやく500万下を勝つと、半年後には1000万下も勝利。さらに準オープンでもいい末脚を見せ、これなら嵌ればこのクラスでも、と思わせてくれましたが、積年の疲れか生来のものか、6歳夏前に2戦して以降は状態を崩して一進一退。7歳夏まで粘りましたが、最後は繋靭帯を傷め、ついに復帰はかないませんでした。しかし、勝ち上がりも遅く、2勝目まで2年も掛かった馬が、31戦を消化して準オープンまで行ったわけですから、やるだけやった感は大きいです。馬にも陣営にも、心からの感謝を。
    • レディスピカ
      • 牝馬にしては立派な馬体をしていましたが、その体を持て余している印象の走り。脚元への負担も大きく、最後まで思うようなレースができませんでした。残念でしたが、半妹のスターコレクションに、姉の分まで頑張ってもらいたいと思います。
    • ダンスアムール
      • 深い飛節が特徴的な馬体がどう出るかと、一種実験的な気持ちで出資してみた馬ですが、内面的な体質の弱さがネックで、能力以前の問題となってしまったのは残念。引退レースとなった3歳夏の未勝利戦では、デビュー当時より20キロ以上馬体を減らしてしまっていました。難しいものです。
  • 9月
    • ラフェクレール
      • デビューから3戦連続2着。特に2戦目はレディアルバローザ、3戦目はサウンドバリアーと重賞級の馬に敗れてしまい、これが結果的には運の尽き。順調さを欠いたこともあり、ついに勝ち上がりはなりませんでした。クビ差届かなかった新馬戦も含め、巡り合わせの大切さを痛感します。
    • トゥルーノース
      • オフィサーの引退に伴い広尾とは縁を切ってしまったため、その後どんな経緯をたどったかは不明も、9月の交流戦大敗を最後に引退。未勝利を勝ち切れなかった馬が、500万下で起死回生の勝利を挙げてくれた時は、本当に興奮しました。名づけ馬ということもあり思い入れは深かったものの、堀厩舎から離れて以降は、クラブへの不信感もあいまって心も離れてしまったのが我ながら残念です。
  • 10月
    • ロードエキスパート
      • Singspiel×Rainbow Questという血統通り、完成は遅かったものの、7歳時まで堅実な末脚を武器に1000万下で馬券に絡む走りを見せてくれました。鼻出血がなければもう少しやれたのかなぁと思いますが、燃えつきるまで走ってくれたという印象もあり、心残りより労いの気持ちのほうが大きいです。あと、2勝目がウインシンシアとの出資馬ワンツーというのも良い思い出でした。
  • 11月
    • カルナバリート
      • 3歳1月の新馬戦、翌月の寒梅賞と他馬を寄せ付けぬ強さで連勝。この時の印象が鮮烈すぎたせいか、その後のキャリアは納得行くものではありませんでした。鞍上のチグハグなレースぶりと、それにも増してチグハグな陣営のレース選択と鞍上への固執。3勝目は長期休養をはさんで4歳夏の降級戦まで待たねばならず、5歳時に鞍上をスイッチした途端の連勝劇には、喜び半分遣る瀬無さ半分といったところでした。皮肉にもオープン入りして家賃が高くなった以降は積極的に使われましたが、ハンデ戦でなんとか上位をうかがうぐらいが精一杯。もちろん2年間以上オープンを張ってくれたことには感謝しかありませんが、デビュー当時目の当たりにした輝きの強さや、3〜4歳時の迷走ぶりから、もっと凄い馬だったのではないか、という思いは消えません。それでも出資馬史上4頭目の1億円ホース、馬には心からありがとうと言いたいです。
  • 12月
    • ティルフィング
      • 強いのかそうでもないのかよくわからない、最後までつかみどころのない馬でした。溜めればそれなりの脚が確実に使えるのと、馬ごみを苦にしないため、紛れのある展開でて我慢して内を突いた時に穴を空ける、というのが好走パターンだったようには思います。しかしとにかく印象に残っているのは、使い詰め→長期休養というコンボと、使って放牧→戻して10日そこそこで使ってまた放牧というコンボの繰り返し。これを頻繁にやるのは「使えない」調教師の証、というのが自分の経験上からの判断基準ですので、もう少し違った競走生活があったのではないかと後悔がある1頭です。


▼毎年恒例のこのコーナーを、今年は年間成績回顧より前に単独で。こうして振り返るたびに、業の深い趣味だと痛感します。それで止められないあたりが度し難さですが、わかって治せるものでもないのでその点については諦観しています。
 度し難いついでに、ティルフィングの項で触れた「使えない」云々の話。とにかく個人的にクリティカルなのは、「厩舎で丁寧にやってくれるかどうか」。特に下級条件馬について、「節を稼ぐ」ために短期放牧→急仕上げで出走、というマネジメントを多用する厩舎は、二重の意味でアウトです。もちろん馬の格で扱いが違うのは仕方ないことですが、それがあからさまなのはそもそも顧客に対する経営者のありようという判断基準において、失格としか言いようがありません。まずその点がひとつ。そしてもうひとつは、「中途半端な状態で使って掲示板を外し節が溜まるのを待つより、じっくり仕上げて放牧明け緒戦から(そして状況次第では連戦して)勝負をかける方が理にかなっている」という単純な理屈です。それで着に来ればよし、そうでなければ諦めてしっかり立て直す方が、結果的には馬房の回転も良くなるわけで、そのあたりの計算ができないのは、やはり能力のなさだと断ずることができます。
 まぁ、もっともタチが悪いのは、良血馬を集めるだけ集めて、そうした手法で意図的に「ふるいにかける」やり口だと思っていますが……。


▼それはともかく、今年も多くの別れがありました。出会いの機会を多く持つようにしているだけにそれは必然、願わくは、来年こそは心残りある別れが少ないことを。