馬の気持ちはわからない(一口馬主遺産)

『馬の気持ちはわからない(『傍観罪で終身刑』改メ)』(http://d.hatena.ne.jp/Southend/)の移転先にして遺跡です

ディープインパクト失格、および関係者への処分確定。

ディープインパクトの薬物検出事案に対するフランスギャロによる処分の決定について - JRA
▼昨日触れた手前、発表された内容についても詳細に触れておきます。まずはJRAの公式発表から。フランスギャロ広報発表(訳)としては、

フランスギャロ審査委員会は3着入着したディープインパクトを失格とすることとしました。
(中略)
池江泰郎調教師に対しては、管理馬を保護するための十分な措置をとらなかったこと、および明らかとなった規律違反を回避するための十分な措置をとらなかったことにより、最高額の15,000ユーロの制裁金を科しました。

以上の通り。まぁこれは想定通りでしょう。次はフランスギャロとJRAの共同調査結果。

1.ディープインパクトの診療のためにフランスに出張していた日本人獣医師は、ディープインパクトの担当きゅう務員から「ディープインパクトが9月13日(水)ロンシャン競馬場での調教後に咳をし始めた」と聞いたため、フランスでの滞在きゅう舎担当のフランス人獣医師に相談をし、吸入治療を推奨された。
2.日本人獣医師の要望で9月21日(木)からディープインパクトに吸入治療を行うこととなり、日本人獣医師はフランス人獣医師の処方により吸入治療に必要な薬品「イプラトロピウム」を薬局で購入した。
3.日本人獣医師は、9月21日(木)〜9月25日(月)の5日間、フランス人獣医師から借りた吸入器を用い、担当きゅう務員の手を借りてディープインパクトに吸入治療を行った。
4.ディープインパクトの関係者およびフランス人関係者は、ディープインパクトイプラトロピウムを第三者から不正投与され得る状況にはなかったと申立を行った。

と、ここまでで、まず意図的な不正使用の線は完全に無くなりました。で、

5.このようにイプラトロピウム陽性の原因が特定されない状況の中で、池江泰郎調教師は、日本人獣医師と担当きゅう務員から「5日間の吸入治療中、ディープインパクトが暴れた際にディープインパクトに装着したマスクから容器が外れ、霧状化したイプラトロピウムが馬房床に噴霧したことが、2回あった。」と薬物検出後に報告を受けた。
6.池江泰郎調教師は、吸入治療を行った際に馬房床に噴霧したイプラトロピウムが、敷料や乾草に付着して競走当日まで馬房に残り、ディープインパクトが競走の前日から当日の間にそれを摂取した可能性があると申立を行った。

これが事実とすれば、(寝藁を換える、あるいは馬房を変えるといった)適切な対応策を取らなかったことと、管理責任者である師にレースまでに報告を上げなかったこと、その双方において、獣医師(ノーザンファームの、なんでしょうね)と市川厩務員のボーンヘッドとしか表現しようがありません。

7.以上の状況から、ディープインパクトの検体からイプラトロピウムが検出された原因は明確には特定されなかったが、池江泰郎調教師は、9月21日から9月25日までにディープインパクトに対して行われた吸入治療において、ディープインパクトが暴れた際に馬房内に飛散したイプラトロピウムが敷料や乾草に付着したにも拘わらず、それら敷料、乾草を入れ替えずに放置し、競走前日から当日の間にディープインパクトがそれを摂取したことにより尿検体が陽性となった可能性があり、その不注意の全ての責任は自身にあると申立を行った。
 よって、ディープインパクトの管理責任者である池江泰郎調教師は、禁止薬物事案を未然に防止すべき調教師としての責務を十分に果たさず、その結果、凱旋門賞に出走したディープインパクトの尿検体から禁止薬物が検出されたことについて、調教師としての規律違反があったものと判断された。

ディープインパクトが暴れた際に馬房内に飛散したイプラトロピウムが敷料や乾草に付着したにも拘わらず、それら敷料、乾草を入れ替えずに放置し」と明確に書いてありますね・・・・・・ちょっと信じがたい話ですが、だからといって否定する材料もなく。こういう具体的な記述で申立てた、ということは、師と獣医師・市川厩務員とで直接事実関係の確認を行った結果であるはずですから。


次はスポーツ紙の記事。


インパクト凱旋門賞3着は失格 - nikkansports.com
「責任は自分にある」池江師 - nikkansports.com

「(今回の処分は)厩舎(きゅうしゃ)責任者として、真摯(しんし)に受け止めたい。ただ、(禁止薬物を)不正に使用したということは絶対にない。ディープの名に恥じるようなことは一切していない。(イプラトロピウムが禁止薬物ということは)知らされていなかったが、責任は自分にある。厩舎で馬が暴れて薬が飛び散ったことも、レースの後で知った。その時点で知っていたら、処置はできたと思う。のどの治療法も日本と同じものだと思っていた」

▼師が現地に入ったのは、レース1ヶ月前のはず。それでイプラトロピウムが禁止薬物と知らされていなかった、どころか喉の治療について具体的な内容を確認しておらず(処方される薬が日本と同じと思い込んでいた)、吸入治療に立ち会ってもおらず、その際に起きたトラブルの報告も受けていなかった、というのは、コミュニケーション不足、引いては管理不行届きと言われても仕方の無いところでしょう。日本有数の調教師が犯してしまったミスとしては、残念としか言いようが無い内容です。



ディープ凱旋門賞失格、池江郎師に制裁金 国内レースは出走可能 - SANSPO.COM

ディープインパクトの出走が予定されるジャパンカップ前に処分が決まったことについてどう感じるか。
「いろんな情報が乱れ飛んでいたので、(処分が)遅くなるよりは、早く出た方がいいと希望していた。これで次の段階へ進めるし、よかったと思う」

▼結局フランスギャロの発表まで、非公式にでも「不正はなかった」と言うにとどめたのは、紳士協定云々以前に、検査結果が出た後、かなり早い段階でイプラトロピウムの処方とその際の飛散という事実が内部調査ではっきりし、ミスだったという可能性が(状況証拠的に)高いと認識していたため、ということではないでしょうか。「説明責任」云々という話が一般ファンはおろか競馬マスコミ人からも出てくるような始末だったわけですが(ラフィアン会報でコラムを書いている某氏など)、こういう経緯だったのであれば、公的に沈黙するしかなかったのは仕方ないところだと思います。裁定が下る前に「薬物の扱いについてミスがあったかもしれない」などと公言するのはナンセンスですし、単に「不正“は”なかった」とだけ公式に発言してそこで会見を終わる、なんてこともできるはずはありませんし。ただ、「イプラトロピウムを治療目的で使用した事実があった」ということだけは判明次第公にしておいても良かったかも、という気もします。そうすれば、少なくとも口さがない人々から「不正投与か?」などと言われることはなかったはずですから。まぁ、フランスギャロとの間で「裁定まで調査内容は公にしない」という取り決めをしていたというのであれば、それを言っても詮無いことではあるんですが。


あとは、一般紙の反応。


ディープは失格、調教師に罰金200万円 凱旋門賞処分 - asahi.com
▼競馬に対してそれなりの紙面を割く新聞だけあって、記事の分量も結構なもの。明日の紙面にも小さくない記事が載るでしょう。


ディープ、凱旋門賞は失格…調教師に制裁金 - YOMIURI ONLINE

治療薬の扱いが未熟など管理が不十分だったとし、制裁金としては最も重い処分となった。池江調教師側は控訴せず、処分は確定した。

うーん、イメージ悪いなぁ。不正より全然マシとはいえ・・・・・・。

 それによると、ディープインパクトが仏滞在中にせき込んだため、日本から帯同した獣医師が9月21日から25日までの間、イプラトロピウムの吸入治療を施した。同薬の体内残留期間は約1日とされる。しかし馬が暴れて薬が飛散したケースが2度あり、この時干し草などに付着した。これを同馬が、レース前日以降に摂取したと、調査結果は推察している。

残留期間は約1日、ですか(1週間とかいう話はなんだったんでしょう?)。ということは最低でも飛散から摂取まで丸4日は間があった、と。うーん、どれだけの量が飛散したのかも、どれくらいの量を摂取すれば反応が出るのか分かりませんので、そういうこともあるか、と思うしかないところなんですが。ただ、担当者の事後処理に不手際があったことが事実としても、なんというか・・・・・・麻雀で言えば、要らないと思ったドラを切ったらその後2巡連続でドラをツモってきた、ぐらいの流れの悪さというか。ますます“ディープ祟り神化説”が信憑性を帯びてきたような錯覚に囚われます。



▼とりあえず、「汚点」とは言わないまでも、「運が悪かった」では済まされないだけの過失が陣営にあったことは間違いなさそうです。この瑕瑾が今後大きなひび割れとなっていかないよう、関係者やJRAの適切なフォローや、ディープ自身の澱みを振り払うような走りを期待したいところ。


<追記1>
須田鷹雄の日常・非日常(11/16付)
▼こんな長いエントリ起こさなくても、これを引用して済ましておけば良かったです。さすがに要所を押さえていらっしゃる。

Q「敷料の交換などは行わなかったのか」
A「(池江)敷料は遠征先のパリアス厩舎からほぼ無料で提供してもらっており、なるべく大事に使っていた」
※須田注 敷き藁はボロや尿でひどく汚れた部分を捨て、残りは干して使う。どの程度捨ててどの程度再利用するかはケースバイケース。貧乏馬術部などはとことん再利用。ゼニ余ってた時代の馬事公苑などはバンバン捨てていた。

うーん、なるほど。