馬の気持ちはわからない(一口馬主遺産)

『馬の気持ちはわからない(『傍観罪で終身刑』改メ)』(http://d.hatena.ne.jp/Southend/)の移転先にして遺跡です

「品格」観からわかる(かもしれない)こと

▼10月1日付けの朝日新聞朝刊の文化面は、100Answers(ワンハンドレッドアンサーズ)の『「品格」って、なんでしょう?』という特集でした。その中に、「あなたが考える「品格のある人」とは、どのような人ですか。」という質問の回答が面白かったので、ちょっと紹介。
 といってもその回答は様々で、「品格とはなにか」なんて僕にはてんで見えてこないんですが、それぞれの回答をなんとなく分類することはできそうだ、という意味での面白さです。分類基準は品格という概念の所在というか方向性の違いで、大雑把に言うと、

  • 他者への配慮
  • 自己と他者(社会)の関係性
  • 自己の有り様
  • メタ・言葉の意味論

という感じです。とりあえずその分類に従って自分なりに分けてみたのが、以下のリスト(敬称略・前述した紙面に記載された内容から一部抜粋し、並べ替えたもの)。このへんには抵触しない範囲だと思うんですが、もしダメだったら消します。


<他者への配慮>

  • 梅沢由香里囲碁棋士)→どんな相手でも敬うことのできる人。
  • 北村想(劇作家)→総じて、ふつうにあいさつが出来るひとであれば、それで十分だと思います。
  • ペリー荻野(時代劇研究家)→きちんとあいさつができる人。

 回答者・内容ともにソフトなイメージ。


<自己と他者(社会)との関係性>

  • 稲葉振一郎明治学院大教授)→バランスのとれたひと。
    • 曖昧すぎてよく分かりませんが、便宜上ここへ。
  • 梯久美子(ノンフィクション作家)→「よいことは他人が先、苦しいことは自分が先」を実行する人。
  • 北澤憲昭(美術評論家)→嫌みなく自尊の念を保ちうる人。
    • 「他者に対して」嫌みな印象を与えない、という解釈でここにカテゴライズ。
  • 隈研吾(建築家)→社会が相対的であるということを理解している人
  • 瀬戸山玄(ノンフィクションライター)→自分の美学を持ちたいと念じ、私利私欲にのまれず制度や地位や名声におぼれず、自分を公の存在と認めながら一生を貫き通そうとする物静かな男女。
  • 先崎学将棋棋士)→国家や民族の美意識に沿った人のこと。
  • 多田容子(作家)→自分の考えに一本筋が通っていて、しかもその思想が独りよがりでない人。
  • 手塚眞(ビジュアリスト)→生き方や行動に理念と自信を持ち、そのことで他人に認められる、または他人を傷つけない人。
  • 寺脇研(映画評論家)→「品格」などと軽々しく口にしない人、というのが前提条件で、自分と価値観の違う他者を認めることのできる人。
    • 前半が自己、後半が他者への言及とみなしてのカテゴライズ。
  • 櫨山裕子日本テレビプロデューサー)→「恥」の感覚を持っている人。それによって自らの行動をコントロールできるひと。もしくはそうあろうと努力するひと。
  • 藤野千夜(作家)→おおらかな人。むやみに人を疑わない人。
  • 山極寿一(京都大教授)→ゴリラのオスに品格があるように見えるのは、卓越した闘争力をもちながら、それを行使せずに悠々として細やかな態度を示すから。
    • 「どのような人ですか」という質問への回答がまんまゴリラの話なのが霊長類学者らしい。
  • わかぎゑふ(劇団主宰)→自分に厳しく、人をおもんばかることが出来る、その道のプロ。

 自他のバランスが取れている人、もしくは社会とのコミットメントを重視している人、というカテゴライズになりそう。


<自己の有り様>

  • 大宮エリー(映画監督)→本能より理性から成るひと。
    • 「理性」の解釈にもよるかもしれませんが、とりあえずここに。
  • 小倉紀蔵(京都大准教授)→利益や流行やしがらみや欲望などから超然とした人。
    • 自己と社会(性)との乖離、というニュアンスに捉えてここへ。
  • 出久根達郎(作家)→ずばり、お金に卑しくない人か。
    • ずばりとおっしゃってるわりに語尾が断言調ではないのがちょっとかわいい。
  • 寺井谷子(俳人)→自己を律すること厳しく、自己を頼むこと強く、かつ自然体。
  • 中島丈博(脚本家)→己の矜持と美意識に忠実である人。
  • 福永伸哉(大阪大教授)→本能、理性、知性が絶妙のバランスを保っている人。
  • 藤沢周(作家)→足るを知ること。
    • 端的過ぎて解釈が分かれそうですが、とりあえずここへ。
  • 伏見憲明(作家)→利害だけではなく、美という物差しを自分のなかに置いている人。
  • 船曳建夫(東京大教授)→楽しいこともつらいことも、同じように静かに受け入れて、生きて死んでいく人。

 わりと自己完結性、内省色が強いグループかも。


<意味論・メタ>

  • 平田オリザ(劇作家)→「品格」なんて言葉を使わない人。
  • 清水良典(文芸評論家)→ある者を誉めそやし、ある者を貶めるために、『国家』や『品格』というような抽象語を振り回さないこと。
  • 石田衣良(作家)→最低限の品格は、品格と名がついた本に飛びつかないこと。
  • 平野啓一郎(作家)→本のタイトルに『品格』という言葉を用いることが、品のある態度なのかどうか、分からない
  • 長志珠絵(神戸市外大准教授)→品も格も身分制社会の制度にルーツをもつ用語であり、現代社会の規範としてあまりに不安定。この語を口にする者が恣意的に使用しているにすぎない。

 まぁ癖のありそうな人が揃ったもので。「自己の有り様」グループと並んで、文人色が強い印象も。良く言えば言葉に対して繊細、悪く言えば他者(社会)への不信というか、デタッチメント傾向があるような。
 あと、長氏の「ルーツが云々」というのはちょっとナンセンスかなぁと思いました。身分制はなくなっても、ある種のヒエラルキーが一切ない社会というのは実質ありえないわけですから、概念として敷衍する分には全く無理がない気がするんですが。


▼・・・・・・といったところなんですが、いかがでしょうか。なんとなく、それぞれのグループ内の著名人の職種やスタンスで、見えてくる傾向があるような気がしませんか? しなかったらすいません。


▼ちなみに自分が「品格」を説明しろと言われたら、「社会性・客観性を持った美学・美意識」という感じになりそう。自分でも言っててよく意味が分かりませんけど。ただまぁ、自己の中で筋が通っているだけでなく、それを他者に(自然に)承認させるだけの説得力が必要条件かな、とは思います。


▼引用した(紙面に載っていた)のは全回答の一部ということで、全部は後日アスパラクラブサイト統合完了のお知らせにアップされるということですので、興味がある方はどうぞ。会員制サイトですが登録は無料だそうです。