馬の気持ちはわからない(一口馬主遺産)

『馬の気持ちはわからない(『傍観罪で終身刑』改メ)』(http://d.hatena.ne.jp/Southend/)の移転先にして遺跡です

歯科医進行

▼最近、近所の歯医者に通っています。思えば大学生時代に通って以来、およそ10年ぶりの歯医者通いになりますが、その間の口内環境が至って良好、常に白い歯ってイイナ状態だったかというと別にそんなことはなく、単に歯がしみようが欠けようが詰め物が取れようが、頑なに通院を拒んできただけのことでした。これは別に歯の治療が怖いとかそういうことでは決して決してなく、どうも個人的に、歯医者に限らず「病院に行く」という行為自体が既に「負けを認めた」ようでいけすかない……という単なるポリシー(というほどでもありませんが)の問題です。


 似たようなポリシーは他にもあって、例えば散髪に関しても、行かなくて済むギリギリのラインまで引っ張るようにしています。行っても行かなくても大して変わらない髪だからだろうとか、単純に30日に1回行くのを45日に1回にすれば1年間で約2/3の出費で済むという貧乏性的発想のためだろうなどと解する向きもあるでしょうけれど、観測者が現象をどう判断するかはその人の自由であり、僕が口出しできることではありません。


 同じく僕が他人の思考に口をはさむ筋合もまたない、というのが論理的帰結ではありますが、仮にここまでの文章を読んで「歯医者」と「敗者」が掛かっていることはまだしも、実は「病院」と「美容院」も掛けているつもりなのではないか……という可能性にまで思い至った方がいらっしゃったとしたら、それこそ歯科るべき然るべき診療科に通院するか、あるいはそんなことを考え付いてしまったという記憶が抹消されるまで痛飲することを、老婆心からおすすめします。


 歯科るに然るに、そう、歯科に通っているのです。先ほど書いたことを繰り返しますが、治療が怖いなんてことは全くもってなく、むしろ犬歯的献身的な治療に感謝するばかり。それどころか、見目麗しき歯科衛生士さんに目隠しをされて、つまり歯科医視界を閉ざされ、口をこじあけられては金属製の棒状のものを突っ込まれる時など、普段の生活にはついぞない、えも言われぬような感覚に魂が震えます。それはもう歯の根も合わないほど震えてしまって開いた口がふさがらないぐらいで、とにかく筆舌に尽くしがたい状態だということです。つまらないポリシーにこだわっていたがために、こんな素晴らしいアハ体験を先延ばしにし続けていたかと思うと、自分の馬鹿さ加減に歯噛みしたくなります。


 と、もしここまでちゃんと読んでくださったような奇特な方がいらっしゃったならば、おそらく総じてドン引き状態なのではないかしらと想像します。客観的に見ればそれは歯科たない仕方ないことかもしれません。しかし個人の性癖(あるいはダジャレのセンス)を云々することはひとまず措くとすると、一般論として歯科通いというのは一種の非日常であり、それが退屈な日常に対するスパイスとなって人の精神に良い影響を与えるということは、十分ありえる話ではないでしょうか。歯科して然して歯科通いというのは、人のデンタル面だけではなく、メンタル面においても治療行為となりうる……という主張を、歯に衣着せず行っていきたい所存。


 まぁとにかくそんなわけで(どんなわけだ)、毎回予約日が楽しみで楽しみで歯科た仕方ありません。ウキウキしすぎてもう、所構わずベルを鳴らして回りたいぐらいです。その心は……通院日(ツインビー)、なんちて。どっとはらい