馬の気持ちはわからない(一口馬主遺産)

『馬の気持ちはわからない(『傍観罪で終身刑』改メ)』(http://d.hatena.ne.jp/Southend/)の移転先にして遺跡です

今週の出走馬(2頭)。/競馬、あるいは競走馬ファンドにおける情報公開について。

  • ウインフロレゾン 土曜新潟10R きんもくせい特別(2歳500万下・芝1600m) 大野 前走6着
  • ロードアリエス 土曜京都10R 八坂特別(1600万下・芝1800m) 福永 10/15帰厩

▼先週の大挙出走の反動で、今週は2頭のみ。
 ウインフロレゾンは中3週。デビューから3ヶ月で5戦目ですから、そろそろ蓄積疲労が心配です。これまで見せてきた末脚を発揮できれば上位争いしても不思議ありませんが、結果問わずここで一息入れるようですので、とにかく大きな怪我のないよう願います。
 ロードアリエスは3ヶ月ぶり。大きく負けてはいないものの、準オープンでは頭打ち感が否めない戦績。年齢的にも、そろそろダートに主戦場を移してもいいのでは、という気がします。休み明けを度外視しても、京都の速い馬場で勝ち負けできるイメージはちょっと湧きません。


▼先週は2勝できたものの、他は全て4着以下と出入りの激しい結果。とはいえ、キャトルフィーユの未勝利勝ちは僥倖でしたし、レディルージュがOPを勝ってくれたのは嬉しい限りでした。特にルージュは引退時期が近いだけに、繁殖入りの良い持参金になりました。将来産駒が募集された時のために、配当はなるべく取っておきたいと思います。


オルフェーヴルの素晴らしい三冠達成となった先週の菊花賞。レース自体はリアルタイムで見られませんでしたが、後日放送された特番等でその雰囲気は堪能させてもらいました。今回は一競馬ファンとしてでしたが、いつか、死ぬまでに一度ぐらいは、ああいう騒動に当事者(の端くれ)として関わってみたいものです。


▼さて、その菊花賞に出走していた1頭のクラブ馬に、ちょっとした騒動が持ち上がりました。

月曜の報道を見て大いに失望した。後藤騎手がベルシャザールの敗因をDDSPだと公言していたのである。凡走して後だしのように実はDDSPでしたとか言われても、ファンは納得しないだろう。いや、後藤は別に悪くない。騎手の立場では分かっていても言えないだろう。問題は松田国調教師である。
 どこの報道をひっくり返しても、事前にベルシャザールがこの病気(というか症状)を発していたという記述は出てこなかった。

実際にマスコミ経由でDDSPの情報が表沙汰になったことがあったかどうかはわかりません。ただ社台TCの会員情報では、少なくともレースまではDDSPどころかノド鳴りのノの字も出てきていなかったのは確かです。
 一方、レース後会員情報やマスコミ情報として出たのは以下のようなもの。

前半、掛かった分かな。DDSPを持った馬で舌を巻き込んでしまうし、最後は苦しくなってしまったよう。
後藤騎手コメント・週刊競馬ブックより

馬の状態はすごく良かったので期待していたのですが、勝負どころからノドが鳴ってしまいました。DDSP(軟口蓋背方変位)の症状と思われますので、レース後あらためてノドの検査を行い、今後の方針を検討したいと思います
松田国師コメント・社台TC公式より

そして、後藤騎手自身がtwitterでレース後に、こんなコメントを残しています。

菊花賞、皆さんの期待に応える事が出来ず、すみませんでした…。 彼の抱えているDDSPという病気、舌が喉に詰まってしまう症状なんですが、それが前半力んだせいで出てしまい呼吸がうまく出来ず、向正面ではもう余力がありませんでした。

http://twitter.com/#!/510gotty/status/128018056625655808

 さらに、レース後3日経った26日、社台TC公式で以下のようなコメントが出ます。

普段の調教や前々走のセントライト記念でも息遣いに問題はありませんでしたので、前走のレース中にノドが鳴ったのはまったくの誤算でした。松田国調教師によると、ゲートのタイミングが合わず出遅れた際、何らかの拍子でノドの弁が後方に変位して気管の一部を塞いでしまったのではないかとのことで、避けられないアクシデントだったと考えられます。
(強調は引用者による)

 おわかりでしょうか。後藤騎手の認識と、調教師、そしてクラブの認識(というか公開情報)は、真っ向から対立しています。念のため書いておくと、

  • 後藤騎手:DDSPはレース前からわかっていたし、厩舎も把握していたはず。
  • 調教師・クラブ:レース前には息遣いに問題がなかった。あくまで菊花賞のレース中に起きたアクシデントだ。

という点において、です。


▼どちらが嘘をついているか(もしくは両方か)、という点については、この際大きな問題ではありません(まぁ単純にヲチネタとしては興味深いですが)。それでもこの一連の流れからは、それぞれの当事者を通じて競馬界の様々な問題点が浮かび上がってきます。その辺については10/25にtwitterでつらつらと呟いたので、そちらもご参照いただければと思います。

そこでも書いたように、関係者がどこまで情報を公開すべきかという線引きについては議論の余地が多く、価値観の差も大きいと思います。ただ、一口馬主としてポジショントークするなら、少なくとも今回のベルシャザールのような病理的問題点が「仮に」事前にわかっていたとしたら、それはたとえいかなる事情があっても、少なくとも会員には開示してしかるべきだと考えます。それは感情的な面もありますが、最もクリティカルな理由は、形式上のこととはいえ、

という点です。
「いや、もし仮にレース前にわかっていたとしても、レース選択や休養・引退といった馬のマネジメントに口出しできるわけじゃないんだから同じじゃないか」
という反論もあるでしょう。しかし、スキームが金融商品である以上、いかに規約でがんじがらめにされていようとも、出資者には唯一にして最大の意思表示が可能です。それは、

  • 解約

です。言わずもがなのことですが、案外失念している向きも多いのではないでしょうか。
 つまり、そういうことです。もちろん実際問題としては、ちょっと馬が怪我をしたり病気になったりしたぐらいで解約まで考えるのは、あまり現実的ではありません。また、1頭(1口)単位での中途解約を認めず、解約する場合はイコール退会となるクラブも少なくないのが実情です(個人的にはこれも金融庁の指導が入って不思議ない悪習だと思いますが)。しかし、競走能力に影響がある「かもしれない」傷病に関して、兆候が見られるにも関わらず適切な診察を受けない、あるいは診断結果を意図的に公開しない、ということがもしあれば、それは金融商品の販売者として(厳密には愛馬会法人とクラブ法人で断絶があるのがまたややこしいところですが)明らかに欠格だと言わざるをえません。なにしろ出資者の「解約するか否か」という判断材料を完全に隠蔽しているわけですから。そして、まともな金銭(投資)感覚を持った人間であれば、ファンド会社が情報提供面で意図的に出資者の投資判断を阻害している、というその一点のみで、十分投資を中止するに値するでしょう。まぁ問題は、この界隈に(自分も含め)まともな金銭感覚の持ち主があまりいないということですが……(苦笑)。
 もちろん生き物のことですから、イチかゼロか、という判断にはなりづらいのが常だということは十分承知しています。しかし、であるからこそ、その生き物を「運用」する立場の人には慎重で、誠実であってもらいたい……というのは、願いとしてはむしろささやかな部類に入るのではないかと思います。


▼ちなみに今回のベルシャザールの件がそれに当たるか、と問われれば、それは「わからない」と答えるしかありません。ただ、

「DDSPなので凡走する可能性があります」なんてレース前に言えるはずがありません。

http://twitter.com/#!/510gotty/status/128633744474128385

という後藤騎手は、以前に同じ社台のハーツクライノド鳴りの症状を認めた時、レース1週前にも関わらず、

先週11/8(水)に行った追い切りの後、騎乗したルメール騎手から息遣いが良くないとの指摘があったことから、先週、内視鏡による喉の検査を行いました。その結果、喉の片側の弁に若干の麻痺の症状が認められました。ただしごく軽度の症状であり、実戦での走りには影響はないと思われることから、来週11/26(日)東京・ジャパンC(G1)へは予定どおり出走させる方向でいます。
社台TC公式より

と明確な情報開示があったということをどう把握されるんでしょうか。もちろん単に勝負師として考えれば、後藤騎手の姿勢は当然のものなのかもしれません。しかし個人的には、競馬はギャンブルスポーツである、という大前提を無視した言動は自らの首を絞めるものでしかないことを、なるべく多くのプレイヤーが認識してくれればいいな、と思います。少なくとも各一口クラブには、自らが「ファンド」というスキームを採っていることを単なる「方便」であるとは思ってほしくはない、というのが、出資者の一人としての切なる願いです。


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