馬の気持ちはわからない(一口馬主遺産)

『馬の気持ちはわからない(『傍観罪で終身刑』改メ)』(http://d.hatena.ne.jp/Southend/)の移転先にして遺跡です

「Haloクロス」の効果を調べてみた。(第4回・回答編)

▼の続きです。

  • Haloクロスの有無によってなんらかの明確な傾向を見出せる(例えば「牡馬の能力(あるいは日本競馬適性)は向上する」「仕上がりが早い」等)、と断定しますか?
  • 断定できないとしたら、データの蓋然性や客観性を高めるために、他にどんな集計・調査が必要だと思いますか?

▼前回はこんな引きだったわけですが、読まれた方は、あなたなりの答えが出たでしょうか。僕の答えはというと、大方の予想通りだと思いますが、

  • 断定できない。

というものです。データ不足ということもありますが、そもそも第2回の種牡馬別調査であれだけ散漫な結果が出てしまえば、自分としてはそう判断せざるをえません。


▼では、以下それを裏付けるためのデータをつらつらと。えー、とにかく前回のデータでなにがもっとも致命的かというと、父系サイドからのデータだけであることです。

個人的にはCIがちょっと欲しいかも。

http://twitter.com/aeolic_guardian/statuses/21041750090

みたいな反応もいただきましたし、母系、というか繁殖牝馬サイドからの集計がないと「木を見て森を見ず」であることは、大方のご同意は得られるのではないかと思います。

まぁCIを出すというのはちょっと手に余る感じですが(笑)、それに準じる方向性のデータを出してみます。
 あ、あと、

まずは、両者からサンデー直仔を抜いてデータを再確認、ですかねぇ。理由としては、サンデーは種牡馬としてはそれ以外より1枚も2枚も格上(経験として)なので、数値を上に引き上げる効果を持っているはずですが、Haloクロスの方には(近すぎて)ほとんどいないからです。

http://twitter.com/niftyheart/statuses/21158556852

というご指摘もいただきました。スウィフトカレントのようにサンデー直仔で印象的な成績を残しているHaloクロス馬もいるにはいるんですが、僕としても大筋で同意できるところではあり、実はご指摘を受ける前から、今回の検証データは「サンデー以後」である2004年産(現6歳世代)以降に絞ろうと思って準備していました。
 というわけで、まずはこちらのデータをご覧ください。

サンデー系産駒全体成績と、「Haloクロスがある」サンデー系産駒成績の比較(全性・2004〜2007年産)


サンデー系産駒全体成績と、「Haloクロスがある」サンデー系産駒成績の比較(牡セン・2004〜2007年産)


サンデー系産駒全体成績と、「Haloクロスがある」サンデー系産駒成績の比較(牝・2004〜2007年産)


これを見ても、やはり全サンデー系に比べ明らかにHaloクロス有りクラスタの優位性が見て取れます
 しかし、この優位性は、本当に「Haloクロスの有無」に由来するものなのでしょうか? それを検証するために、次のデータを出してみましょう。

「非」サンデー系産駒全体成績と、Haloクロスがあるサンデー系産駒の「Haloクロスを持たない兄弟姉妹」成績の比較(全性・2004〜2007年産)


「非」サンデー系産駒全体成績と、Haloクロスがあるサンデー系産駒の「Haloクロスを持たない兄弟姉妹」成績の比較(牡セン・2004〜2007年産)


「非」サンデー系産駒全体成績と、Haloクロスがあるサンデー系産駒の「Haloクロスを持たない兄弟姉妹」成績の比較(牝・2004〜2007年産)


というわけで、前述したとおり、繁殖牝馬」を軸にしたアプローチのデータを出してみました。さて、いかがでしょうか。やっぱり「明らかな優位性」が表れているとは思いませんか?
 分かりにくいという向きもおられるでしょうし、表にまとめてみましょう。

勝馬 1頭当賞金
サンデー系 Haloクロス 格差 サンデー系 Haloクロス 格差
牡セン 37.0% 51.4% 1.39 1303 2588 1.99
28.1% 26.6% 0.95 857 448 0.52
全性 33.1% 40.6% 1.23 1101 1601 1.45
非サンデー クロス馬兄弟 格差 非サンデー クロス馬兄弟 格差
牡セン 33.5% 52.4% 1.56 1080 1555 1.44
25.5% 34.1% 1.34 674 631 0.94
全性 29.8% 43.4% 1.46 897 1099 1.23

  • 「格差」は集計対象クラスタの成績を全体の成績で割ったもので、1以上なら優勢、という目安です。
  • 青が牡馬の、赤が牝馬のデータということで、この表に関しては優劣の関係性ではありません。

……という感じです。牝馬の成績が良くない、特にHaloクロスのあるサンデー系牝馬の成績がガタガタなのは気になりますが、とりあえず全体の傾向としては、

  • サンデー系つけていい成績だったHaloの血を持つ繁殖牝馬群は、Haloクロスを作らなくてもやっぱり成績がいい

としか言えない結果になりました。なんというしょうもない結論……。


「いや、確かにサンデー系より非サンデー系の方が勝馬率は上だが、平均獲得賞金で大きな優位性があるじゃないか!」という方々向けには、以下のデータをどうぞ。

レース数 1着賞金額(万円)
クラス ダート 格差 ダート 格差
新馬・未勝利 685 734 0.93 377800 384300 0.98
500万下 459 599 0.77 389820 447810 0.87
1000万下 245 206 1.19 346070 250960 1.38
1600万下 94 71 1.32 167170 125830 1.33
OPEN特別 70 37 1.89 142700 85700 1.67
重賞 108 14 7.71 633900 71300 8.89
合計 1661 1661 1.00 2057460 1365900 1.51

  • 2009年度の平地競走について集計。

というわけで、日本(中央)競馬は、レース数は同じでも、芝の方がダートの1.5倍の賞金額を誇っているわけです。
 「だからなんなんだ?」という話かもしれませんが、もう一度前述の

をご覧ください。サンデー系に比べ、非サンデー系の方が明らかにダート寄りに出ています。これはHaloクロス云々関係なく、系統全体のデータを見てもらえばわかるように現在の中央競馬の芝コースはサンデー系天国なので、特に不思議はありません。それを踏まえた上で、日本の競走体系の芝ダート格差の特徴、

  • 新馬・未勝利戦のレース数はダートより芝の方が1割弱少ない。
  • 逆に賞金額は、ダートより芝の方が約1.5倍多い。

を、クラス別の差異という点を気にせず大雑把に換言すると、

  • 全く競走能力が同じと仮定すると、芝馬とダート馬では前者が獲得賞金で、後者が勝ち上がり率でそれぞれ優位になる

という傾向を、中央競馬の構造自体が担保している、ということです(まぁこの仮定は思考実験の域を出ませんが)。
 それだけでは舌足らずかもしれないで、ちょっとデータにしてみましょう。上記格差を補正するために、ダートでの獲得賞金のみを1.5倍して算出した結果がこちら。

頭数 芝賞金(a) ダート賞金(b) ダート賞金×1.5(c) a+c 1頭当
「Haloクロスがある」

サンデー系産駒成績

(2004〜2007年産)
138 177474 43652 65478 242952 1761
Haloクロスがあるサンデー系産駒の

「Haloクロスを持たない兄弟姉妹」成績

(2004〜2007年産)
83 37049 55816 83724 120773 1455
はい、見た目の格差もだいぶ縮まりました。やっぱりまだサンデー系Haloクロス馬の方が優位ではありますが、ロジユニ・ヴィクトワールピサダノンシャンティという突出した成績の3歳馬3頭を擁するクラスタとの比較ということを考えれば、「データのゆらぎ」の範囲内とみなしていいんじゃないかと個人的には思います。この辺は恣意的と言われてしまう面もあるかもしれませんので、皆さんの判断も仰ぎたいところではありますが、基本的には「こうした見た目の好成績は、Haloクロスの有無ではなく繁殖牝馬の質の高さによって担保されている」という把握が、より無難なのではないかな、と。


▼やっぱり長くなってきたので、最後にもうひとつデータを。第3回で触れたデビュー時期調査データの、繁殖牝馬軸バージョンです。

Haloクロスがあるサンデー系産駒と、その兄弟姉妹(Haloクロスを持たない)とのデビュー時期比較(2004〜2007年産・全性)


※前回同様、産駒頭数差を均すべく後者の数値に補数を掛けてあります。
さて、どうでしょう。後者の分母が小さくデータに紛れがありますが、概ねほぼ同程度、少なくとも「Haloクロスが仕上がりの早さを担保している」とはとてもとても言えないレベルだと思います。


▼というわけで、僕の結論としては、

「Haloクロス」という要素「だけ」が単独で、競走馬の能力・成績に関してなんらかの定量的・定性的かつ同一ベクトルの影響力を行使する、という傾向は見出せない

というところに落ち着かざるをえない感じです。強いて言えば、「今、日本の芝はサンデー系が強いよ!」「POGでは母父が横文字のサンデー系産駒を狙えばいいんじゃね?」程度でしょうか(笑)。一口馬主としての僕のスタンスからすれば、「割高なサンデー系を選ぶよりは、良質な繁殖牝馬から地味でも出来がいい非サンデー系を選んだほうがアベレージ的にいいかな」とさえ思いますが、まぁどちらにせよ、血統や配合を選馬の上位基準に採ることはないでしょう。馬体厨呼ばわり上等。


▼もちろん、まだまだデータ的に色々な切り口が取りうるでしょうし、「血統論」「配合論」に明るい方には様々なご意見もあることでしょう。僕としても、これらのデータだけで血統論・配合論をまるごとオミットする意図は全くありません。ていうか「サンデー系は芝優位」みたいなデータはこのエントリ群内でも十分出ているわけで、その辺は十分認めていますし、そういった傾向の組み合わせという文脈で考えれば、ある種のニックス関係も成立しうると思います(今のところエビデンスはありませんが)。
 ただ、「Haloクロスの効果が云々」と軽く言ってくれるような向きには、「データの採り方はなるべく多面的に行なったほうがいいですよ」と僭越ながらご助言差し上げたい所存。


▼というわけで、長々とやってきたこのシリーズ、とりあえずここで一段落です。とはいえ、自分が有効と判断する指摘や反論があった場合は、まだまだ続く可能性はありますので、是非色々ご教授いただければと。


<参考>

Haloクロスのあるサンデー系産駒・獲得本賞金ランキング(全世代・平地のみ・母名・母父名付)

順位 競走馬名 賞金合計 母名 母父名
1 スウィフトカレント 28360 ホワイトウォーターアフェア Machiavellian
2 ロジユニヴァース 27500 コースティクス Cape Cross
3 ヴィクトワールピサ 24480 ホワイトウォーターアフェア Machiavellian
4 ダノンシャンティ 16200 シャンソネット Mark of Esteem
5 メイショウレガーロ 14700 コッコレ Carson City
6 メイショウクオリア 14080 アンノウンウォーターズ Rahy
7 メイショウドンタク 9690 ミスティックライト Machiavellian
8 ノットアローン 9520 ソニン Machiavellian
9 ルミナスポイント 8788 ソニン Machiavellian
10 アーリーロブスト 8380 クワイエットアース Mazel Trick
11 ノボリハウツー 7860 ミントエンジェル Machiavellian
12 モンローブロンド 7213 ソニン Machiavellian
13 サンディエゴシチー 5980 ジェニーソング Rahy
14 コスモネモシン 5975 デュプレ Singspiel
15 ミスティックリバー 5411 ホワイトウォーターアフェア Machiavellian
16 アルカネット 5185 パーフェクション Machiavellian
17 トーセンモナーク 5110 ホワイトウォーターアフェア Machiavellian
18 マッハヴェロシティ 5088 マイミッシェル タイキシャトル
19 ウインスペンサー 5075 サンフラワーガール タイキシャトル
20 マルカシリウス 4868 フォルナリーナ Capote

▼うーん、偏ってるなぁ。*ホワイトウォーターアフェアと*ソニンクは偉大なり。

マンハッタンカフェ産駒・獲得本賞金ランキング(2004〜2007年産・平地のみ・産地・クロス付)

順位 競走馬名 賞金合計 生産地 インブリード(父方×母方のみ・5代以内)
1 レッドディザイア 28800 千歳市 Hail to Reason4*5
2 マンハッタンスカイ 25375 新冠 Turn-to5*5
3 ジョーカプチーノ 16655 浦河町 なし
4 メイショウレガーロ 14700 浦河町 Halo3*4、Hoist the Flag5*5
5 メイショウクオリア 14080 浦河町 Halo3*4
6 アーバニティ 13210 千歳市 なし
7 ヒカルオオゾラ 12290 洞爺村 なし
8 イコピコ 11890 新冠 なし
9 セラフィックロンプ 11690 新冠 なし
10 ゲシュタルト 11100 新冠 なし
11 ベストメンバー 10810 新冠 なし
12 ダイワバーバリアン 10700 新ひだか町 なし
13 エーシンモアオバー 10560 浦河町 なし
14 レッドアゲート 9950 浦河町 なし
15 メイショウドンタク 9690 浦河町 Halo3*4
16 ダンツホウテイ 9618 静内町 Turn-to5*5、Almahmoud5*5
17 アントニオバローズ 9340 新冠 Almahmoud5*4
18 フェニコーン 9291 門別町 Almahmoud5*5
19 ヒカリシャトル 8593 浦河町 Almahmoud5*5
20 キルシュブリューテ 8318 新冠 なし
▼どうも5代アウトクロスの割合が多い気がするんですが気のせいでしょうか。とにかくはっきりと言えるのは、「浦河のマンカフェ好き」は本当に顕著で、他の主要サンデー系種牡馬の産駒に占める浦河産馬の割合は概ね15〜18%ぐらいなのに対し、マンカフェについては約24%。なんなんでしょうね一体。あと、誰かAlmahmoudのクロスについて解説してください(笑)。