馬の気持ちはわからない(一口馬主遺産)

『馬の気持ちはわからない(『傍観罪で終身刑』改メ)』(http://d.hatena.ne.jp/Southend/)の移転先にして遺跡です

ノモケンがネ申すぎる件について〜或いはかくも長き高橋体制の終焉〜

(8/13)改正競馬法施行を前に(1) - サラブネット

JRAの理事長は第5代の清井正氏以降、ずっと農水(農林)省事務次官経験者が占めてきた。右肩上がりで売り上げが伸び続けた時代で、経営責任などという観念はもとよりなく、同省側の都合で理事長は替わってきた。一方のJRAでも、当の役員に「経営者」の自覚が乏しく、自前の理事長を出すなどという発想は全くなかった。だが、98年を境に売り上げは下落し続けており、今年も落ちれば10年連続となる。2年目からは現職の高橋理事長体制が続いており、論者の中には業績低迷の責任を問う声もある。半世紀を超えるJRAの歴史で初めて「経営」を正面から位置付けながら、最重要な「経営者」を、今後も落下傘のように外部から来る人に委ねるのか? 外部の経営者をトップに招くハードルはもっと高い。正副理事長の任期切れというタイミングに及んで、JRA、農水省、さらには首相官邸といった問題の当事者が、そろそろJRAに自前の経営者を置く決断が出来るかどうか。まさに分岐点を迎えている。

▼お馴染みノモケンコラムでこんな話題が出て、以前地方競馬関連のエントリでお役所競馬と経営責任所在についてわりとしつこく書いた手前もあり、我が意を得たりと取り上げようと思っていたんですが、その矢先、なんとびっくりこんな記事が。



http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20070815i408.htm

 若林農相兼環境相は15日、任期満了に伴い、高橋政行・日本中央競馬会理事長が8月31日付で退任し、後任に土川健之・副理事長を9月1日付で任命する人事を発表した。

 土川副理事長は、中央競馬会の生え抜きで、1954年の設立以来、理事長に生え抜きが就任するのは初となる。

 日本中央競馬会の理事長は、初代から4代目までは国会議員や農商務省出身者が務めた。66年9月に就任した5代目以降は、13代目の高橋氏まで農林水産省事務次官の経験者だった。

http://www.jiji.com/jc/c?g=spo_date1&k=2007081500397

 若林正俊環境相農水相は15日、日本中央競馬会の理事長に土川健之副理事長を昇格させる人事を決め、同日の閣議で了解を得た。発令は9月1日の予定。農水省次官OB以外の理事長就任は約40年ぶり。高橋政行理事長は31日付で退任する。

<追記>
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/gyousei/news/20070816k0000m010127000c.html

 JRA理事長は、農林漁業金融公庫総裁、農林中央金庫理事長と並び農水省事務次官OBの「指定席」だった。今回も前次官の石原葵氏が有力視されていたが、実現しなかった。安倍政権は次官OBの天下りに厳しい姿勢を取っており、農水省は次官OBを推しても首相官邸の了承を得られないと判断し、生え抜きを選んだとみられる。

▼なにこのタイミングの良さ。ちなみにノモケンは、今週月曜発売の週刊競馬ブック『一筆啓上』においても、『経営責任は誰が取るか?』という題で同様の主旨のコラムを寄稿しており、お持ちの方はそちらも併せてご覧いただければと。そちらは更に突っ込んだ論調で、異例なまでに長期化した高橋体制と、農水省からの落下傘理事長人事について疑義を呈しています。あまりのタイムリーさに、実はノモケンはこの動きを知ってたんじゃねーかと一瞬思いましたが、ブックのコラムの締めは

賭事産業という性格上、全くの自由放任は無理でも、規制は最小限にとどめ、競馬界の自治に任せるのが本来の姿であろう。その意味では、理事長もJRAで実績を積んだ人物がふさわしい。障壁となる8年規定*1の対象からも、JRAは外すのが筋ではないか。今秋の人事で実現するかどうかはともかくとして、進むべき方向は明確であると思う。
週刊競馬ブック2007 8/19号 一筆啓上『経営責任は誰が取るか?』

というものであり、まぁ任期切れのタイミングで書いた記事が結果的にドンピシャだっただけってことでしょうね・・・・・・って、当たり前ですが。どこぞの陰謀論者じゃあるまいし。
 にしても、今回のシンクロは、高橋理事長の「かくも長き在任」と、農水省事務次官経験者からの天下り人事の無責任性についてオブジェクションを投げかけ続けたノモケンに対する、ちょっとしたご褒美みたいなものにも(錯覚とはいえ)思えたり。
 ただまぁ、来週以降アップされるはずの『改正競馬法施行を前に(2)』については、多少なりとも改稿なり軌道修正なりが必要になるでしょうし、ノモケンにしてみれば仕事が増える側面もあったりするのかもしれませんが。まぁ、仮にそうなったとしても嬉しい誤算というやつではないでしょうか。
 ちなみに土川新理事長は、読売の記事によると2004年7月に副理事長になったということなので、「8年ルール」を適用しても最長で2012年までは在任できることになりますか。生え抜きである分、ダイレクトに経営責任を問われうる立場に立たされるわけで、今の右肩下がりの状況下での就任はプレッシャーも大きいでしょう。なんとか結果を出し、“競馬界の自治”という道筋を作ってもらいたいものですが、さてお手並み拝見。


▼蛇足ながら、件の『一筆啓上』からもう一箇所引用。

高橋氏を含めた歴代理事長の中に、競馬がやりたくて農水省に入った人はいないだろう。官僚人生を全うした人に、畑違いのセカンドキャリアの場で経営責任を問うのは、ピント外れな気がする。
週刊競馬ブック2007 8/19号 一筆啓上『経営責任は誰が取るか?』

以前地方競馬の構造的無責任性についてこの辺で管を巻いたことの、いわば中央競馬版という指摘。ノモケンの威を借る格好になりますが、こういう典型的な「お役所競馬」のフレームワークが、少なくともJRAに関しては理事長人事の方針転換を嚆矢として徐々に崩れつつあるとすれば、単に40年ぶりの椿事という以上のパラダイムシフトを迎えつつあるのではないのかなぁと。
 そして未だ旧態依然(古色蒼然と言うべきか)とした地方競馬がその動きに追随できるかどうかは、近い将来に控えるNARの構造改革の出来如何にかかっているはずで、<日本競馬の未来を想像する者たち>にとっては、そちらも注意深く見守っていく必要がありそうです。


<追記2:関連はてブ
はてなブックマーク - Southendのブックマーク以下4件。

*1:引用者注:特殊法人の役員任期の上限が8年と定められている点