馬の気持ちはわからない(一口馬主遺産)

『馬の気持ちはわからない(『傍観罪で終身刑』改メ)』(http://d.hatena.ne.jp/Southend/)の移転先にして遺跡です

最多連闘馬部門・ウインプレジール

連闘回数・9回
ウインプレジール | 競走馬データ - netkeiba.com

▼初出走から足掛け6年目、8歳馬となった昨シーズンは18回出走してうち9回が連闘。中1週も4回あり、在厩期間中はほぼ毎週出走態勢にあったと言っても過言ではありません。現代中央競馬においては常識外れとしか表現しようのないオペレーションですが、しかしこれにはれっきとした理由があります。なんとなれば、この馬は強い調教、いわゆる「追い切り」が一切できないのです。

 “北馬場にあるCコースでダクと軽めのキャンターでの乗り込みを合計2周と、プールを右回り1周、左回り1周、ウォータートレッドミル10分”というのが定番の調教メニューで、これは追い日となる水・木だろうがそれ以外の曜日だろうがほぼ変化ありません。2005年の夏に現在の厩舎へ転厩してきて以来、概ねそのようなプール中心の調整方法でずっと現役生活を続けており、つまりこの馬が襲歩で駆けるのは正味競馬場でだけ、ということになります。

 では、なぜ強い調教ができないのか? 理由は至極単純で、馬自身がトレセンの調教コースでの全力疾走を頑として拒み続けているから、ただそれだけ。その一方で、レースに行けばちゃんと走る気を見せるのが不思議なところです(モタれ癖がひどかったり、馬群から離れると走る気をなくしそうになったりと、普通の馬より数段乗り難しいことは確かなようですが・・・・・・)。

 そんな状況ですから、中間は状態維持に専念し、間髪入れずレースを使っていくことで体を造っていくしかないというのが本当のところで、つまりは「調教代わりのレース」というクリシェを完全に体現している馬が、このウインプレジールなのです。昨年の1回小倉では、彼のキャリアの中でも白眉と言える“予定通りの4連闘”を敢行しましたが、その緒戦となった太宰府特別後の加藤和師のコメントは以下の通り。

間隔が開くと競馬でもトボけるようなところがあるし、追い切りができない馬なので、使い詰めで使っていった方がよくなってきます。小倉4連闘の予定ですが、そういった意味で、今日はいい追い切り代わりになったと思いますよ。来週は登録馬の状況を見て芝にするかダートにするか考えます。それにしても、この馬もおバカですよね。追い切りさえ真面目に走れば4回も競馬を走らないですむのにね。ウインRC公式サイトの会員ページより転載)

 確かに「人間の言うことを聞かないバカ馬」という見方もできるでしょう。しかし、練習と本番を見極めるだけの知性(あるいは感受性)に加え、「たかが練習で全力疾走なんて冗談じゃねえや」という気骨と、「本番では他の馬に負けてらんねえぜ」という闘争心を併せ持ち、なおかつ結果も出して見せたこの馬は、実は他のどんな馬よりも高いアイデンティティを備えた、稀有なサラブレッドであるのかもしれません。

 こういう状態ながら昨年はコンスタントに入着を続け、10月にはついに1000万下を勝って周囲を驚かせたウインプレジールでしたが、準オープンに上がった後の3戦は14着・10着・16着。年齢による衰えに加え、現在のこのクラスの混雑ぶりから彼の「追い切り」が思うようにできないこともあって、望む結果は得られていません。

 彼の強烈な気概が昇級により空回りさせられてしまっているのは、なんとも皮肉な構図に見えます。しかし、そういったもどかしい状況も含め、『反骨の条件馬』とでも呼ぶべきこのveteranの生き様に心を波立たせられるのは、きっと僕だけではないはずです。

 多くの苦笑と、一抹の感傷。単に「昨年最も連闘回数が多かった」という数字上の事実では収まりきれない何かも込めて、この愛すべき競走馬を今回の“イグJRA賞”にノミネートしたいと思います。