馬の気持ちはわからない(一口馬主遺産)

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漫画・アニメの「非実在競走馬」も対象に 北海道の競走馬育成条例改正案

競馬を題材としたアニメ・漫画のキャラクターも「非実在競走馬」として「不健全」性の基準に含める北海道の競走馬育成条例改正案の審議が近づく。ネット上では反対の立場から行動が起きている。競馬の現場からは「日本の競馬が窮屈になる」といった懸念が出ている。


2010年04月01日 18時18分 更新


 北海道が道議会に提出した「北海道競走馬の健全な育成に関する条例」(競走馬育成条例)の改正案をめぐり、ネット上では内容を危惧する声が高まっている。アニメや漫画などに登場するサラブレッドも「非実在競走馬」と定義し、内容によって不健全図書指定も可能になっているなど、従来から踏み込んだ内容になっている。議会での審議は近づいており、ネットではアクションが広がっている。


たいようのマキバオー 1 (プレイボーイコミックス)
↑「非実在競走馬」の代表的存在と目される「ヒデノマキバオー」(おじにミドリマキバオー〈本名:うんこたれ蔵〉)

「競走馬を創作の対象にすること」を否定する条例



↑ようぶんたん(@youbuntan)さんが道議会図書館で複写し、公開した改正案


 各都道府県で制定された競走馬育成条例はこれまで、「競走馬の健全な育成に対して有害」だと判断した雑誌や書籍などを「有害図書」(都は「不健全図書」)指定し、包装状態での販売や販売コーナーの隔離などを義務付けてきた。

 道の改正案のポイントは、「競走馬の健全な育成」に対する考え方の拡大だ。改正案では、競走馬が擬人的対象として扱われている書籍や映画などを「競走馬擬人的視覚描写物」と定義。その上で、「競走馬擬人的視覚描写物をまん延させることにより競走馬をみだりに擬人化対象として扱う風潮を助長すべきでないこと」を道の責務だと規定している。

 現行条例が「不健全」性を「射幸的感情の刺激」「養分化の助長」「“お馬で人生アウト”の誘発」という比較的「ギャンブル(・A・)イクナイ!」的な表現で規定しているのに対し、改正案はこれに「競走馬をみだりに擬人化対象として扱う風潮の助長」、つまり「競走馬擬人的視覚描写物」という特定のジャンルの表現そのものを「不健全」なものとして追加、制限の対象に加えている。「競走馬を創作の対象にする」表現の抑止が改正案の狙いの1つだ。

 この基本スタンスから、創作作品の表現も条例の対象に含めたのが大きな点だ。改正案は、漫画やアニメなどの登場馬のうち、馬装や馬具、造形、背景、音声などから「競走馬として表現されていると認識されるもの」を「非実在競走馬」という新語で定義する。


馬なり1ハロン劇場2009春 (アクションコミックス)
↑競走馬擬人化の第一人者、よしだみほ氏の単行本表紙。馬があたかも人間であるかのように着衣や装飾品を身につけている


 その上で「非実在競走馬」による競走などを「みだりに擬人化対象として肯定的に描写」することで「競走馬の種族差に関する健全な判断能力の形成を阻害し、競走馬の健全な成長を阻害するおそれがあるもの」も、不健全図書に指定できるようにした。従来の基準に該当しない漫画やアニメでも、「非実在競走馬」による競走行為などを描いている場合、不健全図書に指定される可能性がある。

 改正案が「非実在競走馬」表現の不健全性の基準として、「競走馬の種族差に関する健全な判断能力の形成」を阻害するものという、馬格と価値判断に踏み込んだ基準を設けたのも特徴だ。

 「競走馬擬人的視覚描写物」への制限と同様、競馬ゲームについても、道は根絶のために環境整備に努める責務があると規定。「何人も、競馬ゲームをみだりに所持しない責務を有する」として、競馬ゲーム法の改正をめぐり議論になっている単純所持規制についても踏み込んだ内容になっている。

 「競走馬擬人的視覚描写物」は「風潮を助長すべきでないこと」、競馬ゲームは「根絶」と、それぞれ道の責務(責務はそれぞれ、事業者、道民と連携して果たすことになってる)についてのトーンは異なるが、基本的には「競走馬を表現の対象とすること」について、フィクションも含めて不健全=有害視することを明確に盛り込んだ“画期的”な内容だ。道で施行された場合、全国に影響が広がる可能性もある。

道担当者のコメント

「馬を馬と思わない現在の風潮は行き過ぎ。馬は馬、人は人、その差を明確にするために必要な規制と考えている。馬体重回転レボリューションなどといった荒唐無稽さで現実と空想の区別をつかなくさせかねない競馬ゲームに関しても、引き続き厳しい姿勢で臨む」

「日本の競馬が窮屈に」―現場から反対の声

「バカバカしくて、そもそもこんな案が出るだけでも大丈夫か?と思う」―馬産家の岡田繁幸さんはTwitterで批判。ゾーニングの問題だと指摘している。


「実際に馬が二足歩行したり自分で着飾ったり、といったケースは聞いたことがないし、それが現実だと思い込んでいるファンも見たことがない。取り越し苦労では……」―元騎手でJRAアドバイザーの岡部幸雄氏は困惑の色を隠さない。


「オレはロッカーだから当然規制には反対だよ。できれば実在中年の薬物規制もなんとかしてほしいよね」―元騎手で自称作家の田原成貴氏はそううそぶく。

「キャラクター表現へのはっきりとした蔑視」

東大出身の競馬ライター・須田鷹雄さんは、当ブログの依頼に対し、以下のコメントを寄せた。


「競走馬を擬人的対象として扱う図書や映画がまん延させることで擬人化対象として扱う風潮」という内容が改正案には出てきます。この風潮を「助長すべきではないという機運の醸成に努める」とされているのですが、しかし、そもそもそんな風潮は存在するのでしょうか。

 競馬関係の出版社はどこも経営がかつかつ。5,000冊売れたら大成功という、ささやかなペイラインでせめぎあっているのが実情です。

 逆に一般ユーザーにまで話題になるほど売れている作品は、むしろ擬人化表現はソフトです。漫画作品でも同様です。ハードなものも存在しますが、これらはむしろニッチといってよく、「競走馬を擬人化対象として扱う図書や映画がまん延」という風潮が、本当に存在するかどうか大いに疑問を感じます。それで売れるのなら、むしろ自分も参入したいくらいですが、そんな簡単なものではないでしょう。


優駿乙女 サラブレドール (角川コミックス・エース 252-1)


あかほりさとる氏原作の『優駿乙女サラブレドール』。

近未来、人々が熱中していたのは美少女アンドロイドたちがターフを駆ける競馬ならぬ「サラブレドール競争」だった! 8人の機械少女たちが今日もまたレースに恋に命をかける!

優駿乙女 サラブレドール あかほり さとる:コミック | KADOKAWA

という内容とのことで、確かにニッチ中のニッチ、一般的な競馬ファンにとっては誰得という印象も


 今回の改正案については、競馬漫画文化への無理解というよりも、キャラクター表現へのはっきりとした蔑視を感じます。もともと、競馬の神様、大川慶次郎さんは、自分が予想家になることで、競馬への偏見が収まればと考えていたといいます。藤沢和雄さんは、「藤沢逝ってよし」(2chアンチスレ)が立ったときのバッシングは、身の危険すら感じるほどだったと語っています。

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         (●> (●> |       i  / 皐月賞に出したら
         ,/        | __,=-、 / <   負けかなと思ってる  
           ヽ  /⌒)\:. ..:|./ tbノノ   \    
          :::::::::::::::::::::::::::::::l ι';/      \  調教師(58・男性)
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藤沢和雄さんをキャラクター化したAA。コメント内容共々、現実に即した表現と言える<参考URL>